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913日(日) カラコル 曇りのち雨

 

 先週アルマトイで降った雨は、当時の天気予報によるとカザフ南部およびキルギス全般を通り抜けた前線の影響によるものだったが、あの雨は秋の到来の合図であったのか、もはや暑くはならない。大陸の温度変化は激しいもので、アルマトイにおいても雨の前後では日中の気温が1015℃ほど変化した。カラコルではとくに朝は冷える。並木の葉も色づき、落葉も目につく。

 

 迂闊なことだが、ビシュケクで十分な額の両替をしていなかったため、地方としてはレートが悪いと知りながらもカラコルですることになってしまった。しかも日曜なので銀行は休み。ホテルカラコルのフロントでお願いする羽目になった。失敗である。

 

【カラコルの日曜バザール】

 ロンプラの地図を頼りにバザールへ行くが、動物市が見つからない。バザールから少し離れたところに「ある」とされているその場所には原っぱしかない。そこでバザールに戻り、人に尋ねると「動物市は移動したから、タクシーで行くと良いよ」と言われる。タクシーを捕まえ、約5分ほど揺られて行く。たしかに人だかりはすごい。そして人の群のみならず、羊に、牛に、なんと豚までいる。イスラム教徒が多いのに珍しいことだ。ロシア人相手の商品なのだろうか、子豚が乗用車のトランクの中に詰め込まれ、売られている。しかし動物市は全般的に活気が無く、今ひとつ感動に欠ける。あるいはもはや市は終わってしまい、その名残なのかもしれない。あるいは、薄ら寒い曇天によるものか。

 再びタクシーでバザールへ戻り、食事をする。食堂街の方が動物市よりもよほど活気があるが、それでも中国の比ではない。「もう沢山だ」と思った中国、とくに新疆のバザールだったが、今となってはあの熱気と人々の盛況振りが懐かしくも感じられ、大きなフライパンで炊かれている抓飯と、蒸籠で蒸し上げられたマントゥが、彼の地で美味しく食べた記憶を蘇らせんとばかり、うまそうに並んでいる。動物市でがっくりしていた我々はついつい頼んでしまったが、いずれも羊肉が使われていた。独特の風味と、そして恐らく肉の鮮度が落ちているのであろう、臭いがきつい。ユウコはすっかり食欲をそがれてしまった。

 

【アクスー・サナトリウムへのチャレンジ】

 気を取り直してホテルをチェックアウトし、アクスー・サナトリウムへと向かう。しかしバスターミナルへ行くと、「アクスーへ行くバスは無い」と言う。ならばどうやって行けば良いのかと問えば、タクシーの溜まりを指さし「あれで行け」と言うばかり。料金交渉をして乗り込む。途中、入山の検問所のようなものがあった。車で来れば大した距離ではないのだが、小渓谷とでも言うべきか、渓流の流れる谷筋にアクスー・サナトリウムはある。

アクは「白い」、スーは「水」で、この渓流の流れの白さを表したものらしい。雨が降ってきた。

しかし来てみると、サナトリウムとは、まさしく子どものための療養所そのものであり、泊まる場所とは、従業員のオバチャンの部屋を借りることであり、夕飯とは、療養所のお残りをいただくことであり、そして代金とは、すべてオバチャンの小遣いとなるのである。2人のオバチャンとの交渉の末、そういうことになったのだが、ロンプラをよく読むと、たしかにそういうことになっている。なれない英語のガイドブックのため、読みこぼしが多く、自分でも呆れてしまうのだが、おばちゃん達は夜勤なので、彼女たちの部屋がひと晩空いているというわけだ。2つのベッド、1つのテーブル、小さな照明。粗末ながらも不潔なところではない。外からは渓流の流れが聞こえ、山小屋情緒もある。しかし、折から降ってきた雨が、我々の陰鬱な気分を助長する。

 車が着いたのは川の右岸で、我々は川すなわち「アクスー」の右岸に沿って走ってきた。降りたところに事務所のような2階建ての建物があって、その脇には粗末な便所がある。「温泉」は道の先をさらに50mほど上がったところにある。これは外来用らしく、奥の方には大きな建物も見える。「温泉」の手前右手に小さな釣り橋が架かっており、これを渡ると従業員用の「宿泊小屋」がある。小屋は平屋で、5つほど部屋が続いている。我々は真ん中の部屋に泊まらせてもらうことになった。のちに、奥の部屋に2人の少年がいることが判明した。先ほどの「事務所」には小さな売店もあって、簡単な御菓子や飲み物を売っていたのだが、その売り子がここに泊まっているのだ。あるいは親子で働いているのかもしれない。奥の建物には「温泉プールがあるよ」とオバチャンが言うので期待しながら見に行くが、そこの湯をはじめ、施設全体きれいとは言えず、療養の子らが使っているのかと思うと、入る気も失せる。そこで外来用の「温泉」に行くが、ここには入場制限があり、僕もユウコも入り口の待合所で30分ばかり待たされた。つまり、お客はわりといるのである。

待合所は小さな田舎駅よろしく、12畳ほどの小さな部屋があるだけで、壁際に腰掛けが並ぶが、10人も入ればいっぱいだ。しかし恐らく、我々を除く全ての客人は車での日帰り訪問であろう。だって宿泊施設がないんだもの。待合所から男女に分かれ更衣室に入る。更衣室にはロッカーも何もない。そのさきに入浴所がある。入浴所には幅1m、長さ2mほどの4つのバスタブがあり、それを11つ占有し、好き勝手にお湯を張ったり身体を流したりすることができる。他の客の様子を見ていると、まず湯船を洗う。そして1回湯を張る。石鹸などで身体を洗って一旦湯を落とし、ふたたび湯を張る。そしてしばらくつかる。長い人は、さらにもう一度湯を出し、そして張り直す。だいたいこんな具合である。隣で小学生ぐらいの少年2人が遊んでいるのを横目に、僕も30分ほど入った。

 風呂に入ってしまうと、あとはすることがなく、天気も悪いし寒いので、辺りを歩く元気もない。部屋でごろごろするのが精一杯である。渓流の音が心地よいが、長居すべきところではない。トイレに行くにも先の汲み取り便所以外にはないので、雨の中橋を渡り、坂を下っていちいち用を足しに行かねばならぬ。夕食はオバチャンが、約束どおり7時に持ってきてくれた。ヌードルスープとパンをいただいたが、スープには羊肉が使われており、ユウコはほとんど手を付けることができなかった。こればかりは無理強いもできないが、残すのも悪いので僕は頑張って食べる。多少冷めかかると臭いがますます鼻につくが、「栄養、エイヨウ」と自分に言い聞かせて飲む。

 食べ物も飲み物も、まったく用意して来なかったので、少年が売り子をしている売店で水と菓子を買った。山は眼前に広がるので、どうせなら本格的に登ってみても面白いか・・・と思う。そこまで言わないまでも、1泊ぐらいのトレッキングを試みたいものである。が、今の我々にはそのための装備がない。カラコルの、いや、その手前でも良い、ビシュケクのトップアジアとか、アルマトイのカンテングリのような旅行社に頼んでみるのも一つの方法だが、それでは金がかかる。トレッキングするなら、それ用の旅を企画するのが賢明だと思う。これはパキスタンのフンザ訪問に続く、将来的な宿題ともいうべき事柄であろう。

 雨は夜通し降り続いた。