920日(日) オシュ 晴れ

 今日は日曜バザールだ。

 バザールばかりを追っかけている風にも思えるが、バザールはいろいろなものが凝縮されているし、人々の生活をかいま見るという点で最も確実なのがバザール見物だと思う。そして日曜が盛り上がる。

 

【ビシュケクのオシュ・バザール】

 「オシュのバザール」といえば、ビシュケクにも「オシュ・バザール」という名の、ビシュケク最大のバザールがある。バザールはもう充分、と思っていたのだが、このオシュ・バザールは思いのほか盛況で驚いた。意外や意外、中国の市場にも負けないぐらいの活気にあふれていた。色とりどりの野菜や果物が、あっちにもこっちにも山盛りである。バンのトランクにいっぱい積まれたトマトやリンゴ、オレンジ。すごい。すごいことだ。さらに意外なのは魚が多いことだ。塩漬けや干物ばかりだが、ここらの人は魚を食べるというわけだ。キムチのコーナーには自家製のキムチであろうか、いくつもの店が並び、ちょっと立ち止まって見ていると威勢の良い声がかかる。お客であるはずのこちらがむしろ圧倒されてしまう。久々に良いバザールに出会った気がする。

 

【オシュのバザール】

3000年の歴史を持つ都市、オシュの日曜バザールはロンプラでも取り上げているだけあって、非常に活気がある。人も多い。店も多い。なんでもあるが、服屋が多い。野菜売場がもっとも盛況である。売り手も元気で声が大きい。ロシア人のバザールではこうはいかない。冷やかし歩いていると、米売りが「おまえは米を食べるだろう? 米買って行けよ。うちのはうまいぞ」と呼び止める。見ると米が赤い。これは精米の影響なのだろうか。「米が赤いぞ」と日本語で言うと、意味が通じたのか、米売りは米粒をひと掴みして手でもむ。すると赤い部分がこすれ落ちて、白米がでてくる。米売りは得意げにアピールする。

 「白いだろ? 買っていけよ。なんで買わないんだよ」。

 最近、ズボンのチャックの調子が悪くなっていることに気がついた。ストッパーがいかれており、油断しているとチャックが全開になってしまうのだ。これは厄介なので、服屋のどこかに修繕してくれる店はないものかと聞いてみるが、チャックそのものは出てくるものの、修理サービスは無い。

 バザールの一角でホットドッグを食べたが、おかずが無く殺風景であった。ビシュケクのはうまかったなぁ。

 

【芸術鑑賞か・・・?「コメディ・アララシュ」】

 いままで、オペラかバレエか、あるいはコンサートか、そういうものを機会を見つけて探していたが、一向に見つけることができなかった。しかし今日、ついにチケットを入手したのである。それはレーニン像からの帰り道、レーニン通り沿いにある「バーブル・ウズベク劇場」を訪れたときのことであった。

大きな立て看板が掲げられていた。「アララシュ」とある。日付は今日である。ロシア語で書かれているので詳細は分からないものの、コメディとかドラマとかミュージックという単語が並んでいる。メインの出演者は4人らしいが、ほかにも何人か出てくるらしい。芝居かなにかなのだろう。マナス(キルギスの詩吟)もやるように書いてある。何でも良いから見てみよう。

開演は1930分とのことだが、19時前にいっても入り口は閉まっていた。建物の前で待つ。

お客は少ない・・・と思っていたら、開演直前になって増えてきた。立て看板の脇で待っていると、中学生くらいの男子2人が英語で声をかけてきた。僕が「サラームアレイコム」と言うと喜んだ。

彼らは学校で英語を学んでいるとのことだが、まだ片言しかできない。それでも、「アララシュとは一体何をやるのか」と聞いてみると、これはジョークであり、ファニーであり、コメディだと言う。「僕、日本人なんだ」とおもむろに言うので僕らは真に受け「えっ?」と目を白黒させると、彼が「これはジョーク」と笑った。周りにいた子ども達も我々に興味があるのか集まってくる。ジョークの少年2人が話す。「日本の製品は素晴らしい。僕の腕時計を見て。これはカシオ。日本製だよ。ハラショーだ。中国の腕時計はダメだね。すぐこわれる。日本といえば、カラテとサムライ。カラテはできる?」

すると、子どもの1人が、「オス!」とポーズを決める。「トヨタの車。スズキのバイク。みな、良いね。キルギスはきれい? 日本の大統領は誰? キルギスの大統領はアカエフ。知ってる? 奴、ハゲだよね、つるっぱげ」と頭をなでる。周りの子ども達がげらげらと笑う。

「ロシアの大統領はエリツィン。奴はもうダメだ。サヨナラーだ」。首を切る仕草。また、周囲の子ども達が笑う。

「ジャッキーチェンは日本人? ブルースリーは? ヴァン・ダム、シェワルツェネガー」と、どれも違っており、日本人としてはがっかりだが、かといって我々もキルギスに関する知識はほとんどない。遊牧民、山の民、鷹匠、マナス・・・。

キルギス語の数字はウイグル語と同じなので、僕が1から10まで数えてみせると、周囲の子ども達はワッとよろこんだ。

そういえばここへ来る前、ホテル東側の広場に、馬にまたがる勇者の銅像が設置された。聞けばこれは「クルマンジャン・ダッカ」なる英雄らしく、50スム札(2番目に大きい金額の紙幣)の肖像になっている御仁である。これもオシュ3000企画の一環なのかもない。そこで少年に「クルマンジャン・ダッカとは、何者だい?」と聞くと、「学校で習うから誰でも知ってるけど・・・」英語で説明するのは難しいと言う。まあとにかく、キルギスの、とくに南部ではヒーローでありスターなのだということは分かった。

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 あとで知ったところでは、クルマンジャン・ダッカ(1811-1907)は女盗賊であり、ロシア人の侵入を防いだとかいうわけで、のちには女性政治家として活躍したとかで、女だからヒーローではなくヒロインなのだが、いずれにせよ地元のスターであることに変わりはない。20世紀初頭に活躍したらしい。

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 開場。我々は最前列に座る。

 アララシュはコントグループで、言うなればこれはドリフターズの「8時だョ!全員集合」と考えれば良く、

     オープニングコント(投票でリーダーを決める)                          ABCDEF

     ご挨拶(リーダー格の年輩の男)                                                  D

     男性歌手によるカラオケソング                                                      H

     手品。受けはいまいち。かみそりや電球を食べる芸は、場内でも失笑もの G

     コント(男性2人。夫婦喧嘩(片方が女装)が仲良しになり、アコーディオンによるデュエット)     A(妻)C(夫)

     アコーディオンによる歌。                                                             H

     2人、女1人による不倫コント。写真撮影コント                      ABI+G

     女性の歌                                                                                         I

     手品2回目(場内の子ども達も参加)                                           G

     ドゥンガン男性がクビになるコント                                               BDF

     ウイグル、キルギス、ウズベク、ドゥンガンによるもめごとコント。        BCDF+E

     締めの歌(アララシュによる)                                                      ABCDEF

出演者は

 A:背の高い男。日本にもいそうな芸人。もっとも人気があり、我々でも十分笑える。アコーディオンもうまい。

 B:吉幾三に似た男。

 C:吉幾三に似た男に似た男(兄と思われる)。金歯が特徴。良い声。歌がうまい。

 D:少し小柄な、リーダー格と思われる年輩の男。この人も面白い。人気がある。

 E:大柄で太っちょの男。この人は最初と最後にしか出ない。悪役専門の感じ。

 F:小柄な男。白い帽子をかぶっていたのでドゥンガンと思われる。受けが悪い。

 G:手品をやった、背の高い男。

 H:歌手。はじめのカラオケではサクラの応援もあってノリノリだったが、アコーディオンはへたくそ。

 I:女性。歌もまあまあ上手い。

と、こんな具合である。年はいずれも中年であるが、ドゥンガンの男だけは若そうだ。コントが始まるときには必ず「おきまりの」テーマ音楽が流れるのだが、これがまた安っぽくてよろしい。場内はゲラゲラと爆笑の渦だが、後半さすがにだれるのか、最後2つのコントは受けが今ひとつであった。最後の歌が始まるとお客さん達はみんな「終わった終わった」とばかり、最後の挨拶も聞かずに席を立つ人が多い。劇場というには大げさで、田舎の公民館という表現が似つかわしい。

終わったのは夜10時であった。治安が気になるところだが、子ども達も大勢いる。劇場前では送迎用のバスやタクシーが待ちかまえている。歩いて帰る人も多い。通りの照明が少ないので薄暗いが、大丈夫なのだろう。開いている店もあるし、客もある。「楽しかったねー」と2人で歩いていると、うしろから1台の車がスーッと近づき、我々の横を過ぎたところで停まった。ジープである。なんだぁ? と思って身構えると運転席から「Oh You!!」。なんと我々をビシュケクからここまで運んでくれたナイスガイ運ちゃんではないか。二度と会うことはないと思っていたので、思わず我々も「あーっ!!」と驚く。ビシュケクに戻るための客引きをしているようだ。「君たちもビシュケクに戻るか?」と聞いてくるので、「いや、明日ジャラルアバッドに行く」と答える。彼は「そうか」と微笑んで、「さらば」とばかり去っていった。「彼は劇場で客引きしていたのかも」と僕が言うと、ユウコは「アララシュ見たのかもよ」。実に気持ちの良いナイスガイであった。

 キルギスタンは平和だ。もっと世界に知られても良いのに、と思うが、知られれば観光客が増える。観光客が増えると街は変わる。今のままが、彼らにとっても良いのかもしれぬ。