927日(日)ジャバグリ 晴れ

 ジャバグリとは「2歳馬」というカザフ語で、カザフでは馬の年齢毎に呼び名が異なるのだそうだ。出世魚の考え方と似ている。

 

 7時に起床。まだ暗い。

昨日はさすがに食べ過ぎた。朝も食傷ぎみである。胃腸薬を飲んだ。それでも、朝食は美味しい。

 

ガイドとしてやって来たのは自然公園職員のルステムさん。「私の祖先はタタール人です」と自己紹介した。彼は我々に双眼鏡を貸してくれた。エフゲニーさんが昼食用の食材を用意してくれ、9時半、僕とユウコとルステムさんの3人で、山歩きにでかける。山は秋である。夏になればお花畑になるんだろうなーと思われる斜面はそこかしこにあるが、いまは枯れ野である。が、街の喧噪を離れ、静かな山道を歩くのは心地よい。天気も良い。ルステムさんを先頭にユウコ、僕と並んで歩くが、ルステムさんのペースも無理・無駄がなく、歩いている間にも、決して得意とは言えない英語ながら(僕も人のことは言えないのだが)、いろいろと山の自然について説明をしてくれ、飽きさせることがなく、苦にもならない。ユニパの森、ジャムにもなるというローズヒップ(バラの実)の茂み。これはこの辺りに住むクマ(Tenshian Red Bear天山アカクマ)の好物だという。そのクマの落とし物は山道にもいくつか見られ、それを観察すると、たしかに木の実やフルーツが好物であることが分かる(道中についてはユウコ日記を参照のこと)。

 

 これまた結果論だが、旅行会社とコンタクトを取ればアルマトイでもビシュケクでも、今日のようなハイキングを楽しむことはできた。我々があそこでおこなったのはアスファルトの坂道をひたすら歩くという「苦業」に過ぎない。自然を楽しむというものではなかった。とはいえ、頼みになるカンテングリもトップアジアも所詮旅行会社なのであって、だから金がかかる。しかし、エフゲニーさんも、彼の奥さんも、そしていま、共に山を歩くルステム氏も、みなサイエンティストで自然愛好家で、自然公園という保護区を守る人たちで、もちろん我々2人は彼らに対価を支払うのだが、妙な商売っ気がないところが良い。だから我々も安心できるのだろう。カラコルのヴァレンティン氏は、旅行者に対する親切心のほうがやや勝っており、大儲けをする姿勢が少ないという意味で中間的な存在といえる。しかし当時としては泊まりがけの山歩きなどは考えていなかったのだから、それはそれでもう良いだろう。

 

 ルステムさんからも、春のチューリップツアー、夏の壁画ツアーの話がでた。「チューリップツアーのシーズンになると、動物たちが麓に降りてくるから、歩きながらさまざまな動物を見ることができる。山のスペシャリストになると、珍しいユキヒョウも見るというよ。僕はまだ見たことが無いんだ」。「遠くに見えるピークの山がカシュカ・バルタ峰で、夏のトレッキングはあそこまで行くんだ。壁画もあそこにある。氷河も見られるよ」。

ユニパの森や遠くの雪山を楽しみながら、9時半から17時にかけてのハイキングが終わった。出迎えたエフゲニーさんが「天気が良くて良かったね。TVの予報では悪くなる事ばかり言っているから心配したよ」と、その気遣いが嬉しい。そして今日も素晴らしい夕食がやって来た。ドレッシングサラダ、ポタージュ、パプリカ肉詰め、ブドウ、パンケーキ。

 

 ルステムさんがタタール人との話を聞いたのでエフゲニーさんにも話を聞いてみると、彼は誇りありげに「私はロシア人だよ」と答えた。

ここを去るのは実に名残惜しいが、明日はシムケントに向かうつもりである。エフゲニーさんによると、意外にもジャバグリ村からシムケントへの直行バスが11本あって、出発は朝7時半とのことだ。ちなみに同じバスがシムケントから16時発でジャバグリに戻ってくる。街への買い出しにはこのバスが便利だと言う。朝食の準備が大変だからことわろうかと思ったが、それを口にする前にエフゲニーさんの方から「だから朝食は早いほうが良いね」と、これまた嬉しい心遣いである。また「シムケントからタシケントに入ると思うが、カザフテンゲからウズベクソムへの両替はウズベク入国前に済ませたほうが良い。街中で両替する機会が無くても、国境でできるから大丈夫。カザフ国内でのレートの方がかなり良いから、かならず両替を済ませておきなさい」との貴重なアドバイスも頂いた。