101日(木) タシケント 晴れ

 今日は午前中、トルクメニスタン大使館へ赴く。午後は旧市街の観光にあてるつもりだ。

 

【ズボンを直し、大使館へ】

 ズボンのファスナーが壊れているのはキルギス以来のことだが、ユウコの観察によると、ホテルには衣服のクリーニングの他に修繕のサービスがあるらしい。「なに見て分かったの?」と聞くと「インフォメーションの看板に『ボタンと針糸』のマークがあったの」と言う。修繕サービスがあるという地階に降りてみると、修繕コーナーの扉は閉まっており、通りがかった職員に聞くと「今日はHolidayなので休みだ」と言う。Day of Teachとかいう休日なのだそうだ。トルクメニスタン大使館に行くため、場所をホテル3階の旅行社で教えてもらったときも、「今日は休みじゃないかなあ?」と言われた。昨日電話したときは、今日も仕事をしている雰囲気であったが・・・とにかく、行ってみれば分かることだ。

 

 ヨルダムチのオネエサンが、延泊したホテル代を集金に来た。「タシケントの次はサマルカンドに行くの? だったらアコモデーションサービスもできるわよ」と言う。詳しい話を聞きたいところだが、「ここではなんとも言えないし、今日は休日だからオフィスも休みなので」明日、我々が行くことにした。ソビエト時代の名残と考えれば、旅行会社を通したほうがサービスが良くなるというのは、あり得ない話ではない。ロンプラにもサマルカンドの宿情報はあるが、ホテルタシケントと同様、現状とはかなり異なっているだろう。ヨルダムチの世話になれば、宿探しもしなくて済むし、だいいち探し回ったところで、納得のいく宿を見つけるのは困難な気がする。つまり、この国において安い宿はヒドイ宿を意味し、それなりの快適を求めるならばそれなりのコストがかかる。それは中国でも同じことだが、中央アジアのほうが旅行コストが高い。ひどい宿で我慢するより、中央アジアのコスト高についてはもはや観念し、イランでの物価安に期待するのが賢明に思われる。

 

「イランに行けばなんとかなる」。僕はそう思い始めていた。

 

【大使館への道も遠いが、本国への道はさらに遠い】

 さて、トルクメニスタン大使館に行くにはホテルタシケント正面のブユク・ツロン通りを南に走るバス67番に乗り、そのまま南下し、ショタ・ルスタベリ通りを下って、バーブル通りとの交差点で降りる。停留所で3つか4つ目である。交差点から東南のブロックに入るとアラビ通りという小道があって、その一角に大使館がある。ホテルタシケントの旅行会社でも地図を広げて「このブロックの辺りだから、あとは人に聞け」と言われていたとおり、辺りは住宅地で小道脇道が多く、ややこしい。人に聞くと、みな訳知りで親切に教えてくれた。大使館は2階建てのきれいな建物に入っているが、この建物にはトルクメンの他にタジキスタン、ベラルーシ、グルジアの大使館も入っている、いわば合同庁舎である。隣には国連の端をかざした、似たような2階建ての建物が並んでいた。

 

 建物の通用口らしい入り口の脇には、口ひげをはやし、腹の出た、浅黒いオジサン共が何人か待ち行列を作っているが、我々は彼らを横目に建物正面の入り口から入る。警備員はいない。トルクメニスタン大使館は2階にあった。階段を上がるとインターホンがある。これを押し、相手の返事を待って「ビザを取りたいんです」と言うと、「そこで待ってろ」と言われる。ほどなくして、ロシア系と思われる、優しそうな、眼鏡をかけたオジサンが出てきた。「何か?」と英語で尋ねるので、Invitationを見せ、英語で「ビザを取りたいんですが」と言うと、彼は眼鏡に手をやりながらこう説明した。「君たちは飛行機でアシガバードに行くの? ああ、陸路で行きたいのか。それで、そのあとは? イランに行く。なるほど。だったら、この期間にトルクメニスタンに入ることは出来ないよ」

「え?」あまりにもアッサリ「Impossible」と言うので、大きな声をあげてしまった。オジサンの説明が続く。

102728日に首都のアシガバードで独立記念式典があってね。国境はすべて封鎖されるんだ。だから、もし1025日以前にトルクメニスタンに入りたいならトランジットビザしか出せないよ。7日間か、せいぜい10日間か。だけど、1025日以降に入国するのであれば、20日間有効のツーリストビザを出してあげよう」。確かにこのように説明したのである。さらに彼は続けて「これは内緒だが、今日は祝日なので、今日中にビザを取ることもできるけど、162ドルかかってしまうよ。だけど明日なら、半額の32ドルで済むよ。だから、今日1日考えて、また明日おいでなさい」。

我々は建物を出た。

優しいオジサンであるが、ここは考えどころである。国境が封鎖されるという話は、初めて聞いた。Invitationは日本にいるときにカンテングリを通じてアシガバードの「アヤン」という旅行会社から取得したものだが、このときの招待期間は「1020日から30日間」というものであった。つまり、大使館員の言う独立式典の期間を含んでいる。Invitationはトルクメン外務省からの許可を得た上で初めて発行されるはずなのに、そのときには何の考慮も成されていなかったということなのだろうか。だとすれば、このInvitationは意味のない書類になってしまうのではないか?

事実はわからない。くよくよ考えても仕方ないし、ビザが取れないわけではないのだから、旅程を考え直せばよいのだ。

 

【タシケント見物、しかし体調が良いのかどうか・・・】

気を取り直して、旧市街の観光散歩に出かけることにした。ユウコは体調が悪く、足取りも重いが、それでもバラクハンのメドレセ、クケルダシュのメドレセなどを見物する。旧市街にある地下鉄駅「チョルスー」から出ると、目の前にチョルスー・バザールという大きなバザールがある。ここも冷やかしに歩く。

うまそうなハンバーガースタンドがあった。地元民にも人気があって、オープンカフェの席はほとんど埋まり、売場にも行列が出来ている。たしかにうまい。ここで軽い昼食を終えるが、やはり体調の悪いユウコは「宿に帰って休む」と言うので、今日はここで別れることにした。ホテルまでは地下鉄を乗り継げば簡単に帰れる。午後2時過ぎであった。僕はほかにもあちこち歩くつもりで別れたのだが、いざ1人になって歩き出すと、自分の体も重くなっていることに気づく。疲れているのだろうか、それとも暑さのせいなのだろうか。10月だというのに、日差しは真夏のように厳しい。おそらく33℃はあろうかという暑さだ。乾燥しているので汗のかき具合が日本と異なり、不快感がない分、スタミナの消耗に気づかないのかもしれない。ここ何日か、移動移動で慌ただしかったことを思い出す。暑い中、エンヤコラと歩き回ったことも思い出す。昼間は暑いが、朝夕は寒い。こうした気候に合わせるのも、意外に体力を使うのだろうか。いずれにせよ、そろそろ休養日が必要ということだ。僕は午後4時頃部屋に戻った。昼寝をしていたユウコが「早かったね」と驚く。

 

【疲れた身体にビールを一杯】

 ウズベキスタンの国産ビールは、タシケントで見る限り「アルマリク」という銘柄しかないが、これは安いけれどもマズイ。輸入品はBAVARIADABEfesなどがあるが、この中でもBAVARIAは高いだけあって味はよい。ちょっとした贅沢品だ。

 

 ビールを飲みつつ、今後の旅程を考える。トルクメニスタンへの入国制限を考慮すると、この先、イランまでの道程としては、以下の2つがある。

 

プラン1:ウズベキスタンはさっさと見て回り、トルクメニスタンはアシガバードのみを見る。アシガバードでは日曜バザールと競馬が見られれば充分ということにして、1018日(日)を挟んだトランジットビザを取る。ただし、式典直前ということで市内全体がピリピリしている可能性は高い。警官の対応に気をつけねばならないだろう。

プラン2:今後10月末までウズベキスタン国内にとどまり、そのあとトルクメニスタンを通り抜ける。

 

 前者の案でいくとすると、

10/1(今日) タシケント滞在

 /2 午前中ビザ取り。午後サマルカンドへ

 /34 サマルカンド滞在

 /5あるいは6  サマルカンド→ブハラ

 /67 ブハラ滞在

/8 予備日

/9 ブハラ→ウルゲンチ→ヒワ

/10 ヒワ滞在

/11 予備日

/12 ヒワ→ウルゲンチ→アシガバード

ウルゲンチからはアシガバード行きの鉄道に乗りたいが、時刻の確認および予約をする必要がある。

サマルカンドからシャフリサーブス(ティムールの故郷)へ日帰り観光に行くなら、そのための1日が必要となる。また、トルクメンのビザは午前中申請、夕方受け取りだから、明日のうちに移動をするのは難しいだろう。トルクメンへの入国日を考えると、もう少しゆったりした日程の取り方のほうが適切だ。たとえば、

 

10/3 サマルカンドへ

 /46 サマルカンド滞在

 /7 ブハラへ

 /810 ブハラ滞在

 /11ヒワへ

 /1213 ヒワ滞在

 /14 ヒワ→ウルゲンチ→アシガバード

 

これはかなり余裕を見た日程である。いずれにせよ、タシケントには更に1泊せねばならない。が、これは今日、休日だったことによるもので、やむを得ないところだ。もっとも30日のうちに大使館に行っておけば話は違っていたが、それは結果論である。トルクメンのビザは10/1525ということでお願いすることにしよう。そこで明日の仕事は、@朝一番10時ぴったりに大使館に行き、ビザを申請する。Aホテルに戻って、ユウコはヨルダムチに電話する。暢はそのまま銀行へ行き、両替をする。B午後、2人でヨルダムチを訪れる。