8月16日(日) 吐魯番 晴れ

 今日も暑くなりそうだ。

 シャワー・トイレ共同の「普通間」に泊まるのは今回が初めてだが、この印象を簡単に記すなら、「標準間」はワンルームマンション、そして「普通間」は共同アパートといったところであろう。トイレ・洗面はわりかしきれいにはされているものの、「清潔」というところまでには至らない。洗濯用のたらいもあり、そして中国人は洗濯をしている。が、僕は、洗濯する気にはなれない。ほかの旅行者がどう思っているのか知らないが、中国の普通間に泊まるのはかなりの覚悟と決意が必要だ。

 体は重いが、疲れは多少抜けた。

 

 吐魯番飯店に近い、大通りの食堂で粥(稀飯)を食べる。その名の通り、まさに米は稀で、というよりこれは「米のとぎ汁」だよ。小豆やらピーナツやらも入っているが、煮込んであるから歯ごたえもないし、味付けもない。はっきり言ってまずい。が、水分補給と栄養補給のためには食べねばならぬ。苦行のように食べた。いや、飲んだ。

 

 チェックアウトは正午。部屋を変えたいが、吐魯番飯店も今日は客がいっぱいの様子。おまけにここの標準間は「1人120元」。つまり2人で240元。これは高い。そこで僕はここのフロントに残って荷物番をし、ユウコが宿探しに行くことになった。30分ほどで戻ってきた。「通りを少し北に行ったところに高昌賓館があって、標準間180元だが部屋はきれい」と言う。決まりだ。さっそく移動。そしてシャワー。昨日シャワーを浴びていないので、しあわせだー。久々にひげを剃った。たまった洗濯もしよう。

 

 吐魯番飯店で見たような共同シャワー・共同流し場でも困ることは、ないといえばない。学生の頃はそういうところで生活していたのだから。共同トイレでも、共同シャワーでも、別に気にするところはないはずなのだ、どうしてもためらわれる。慣れていないのだろうか。落ち着かないからだろうか。外国だからなのだろうか。それとも、衛生問題が気になるからだろうか。

 夕方まで休憩。4時を過ぎたところで散歩に出る。が、暑い!! 40度はあるだろう。空気が乾燥しているから、日本の蒸し暑さのように押しつぶされるような感覚にはならない。歩いて風が通るところはどんどん蒸発するのか、まるで汗をかかない。しかし、立ち止まればたちまち汗が流れてくる。

 

 双方の親元へ電話するべく、中国電信に行く。現地の方々で混んでいる。

 電話をしたのは「ヒマがあったから」というのもあるが、ぼちぼち連絡を入れようかという話はユウコともしていたし、そして少し気になるからでもあった。どうでもいいことだが、僕は親元の2階の部屋に積み込んだ我々の家財が気になっていた。まさかとは思うが、2階の床が抜けたらどうしよう。あるいは、出発前に少々元気の無かったオヤジの身になにかあったら(たとえば病で寝込んでしまったら)どうしよう、などと要らぬことが気がかりなのである。この2週間、我々は全く音信不通で旅行しているので、あちらに何かあっても、我々を捕まえるすべはない。

「心悩まし手が着かず」というほどではないにせよ、つねに頭をよぎる問題ではあったのだ。それに今日は日曜日だし、お盆の時期でもあるし、電話をして元気な声を聞かせよう、という意識もあった。向こうも我々を心配していることだろう。

 というわけで、無事電話は終了。料金はユウコの分と併せ、8分で100元。1分当たり12.5元(約200円)だ。

 

吐魯番の街を南に行くと、住宅街になる。子どもにカメラを向けると無邪気に喜ぶ。そういえば、昼間バザールを歩いていたときもオジサンどもに「撮れ撮れ」とせがまれた。子どもたちは我々を見ると「アロー」とにこやかに手を振り、そしてすぐに「バイバイ」と、また手を振る。「アロー、バイバイ」「アロー、バイバイ」笑顔には屈託がない。しかし、僕は考えてしまう。この言葉を教えたのは、すなわち余所者であるところの外人観光客にほかならない。彼らが勝手に覚えたのかもしれないけれども。バザールでも、声のかけ方は全く観光ズレしていて、「アンズ」だの「ハミウリ、ヤスイ」だの、日本語もちょくちょく出てくる。これが、良い街なのだろうか。

 

良い町だが、客引きが多い。

客引きが多いが、良い町だ。

良い町だからこそ、客引きが多い。

客引きが多いからこそ、良い町だ?

 

旅行者にとって、居心地の良い町、生活のしやすい町であるかもしれない。宿も、安くて比較的清潔なドミトリーがある。観光地だから英語も通じるし、日本語ですら通じる。しかしそれが果たして「良い町」なのだろうか。何を以て、良い町とするか・・・。

 

吐魯番賓館付きの食堂で早い夕食を取る。僕らは通りに面したオープン席に座る。向かいにはバックパッカーのたまり場「John's Cafe」がある。通りにはウイグル人の客引きがたむろしている。昨日汽車站で見かけた顔もある。彼らも我々を遠くに見つけ、声を投げてくる。「バザールに行きましょう。バザールでゴザールヨ」「ロバ車に乗りませんか」。ユウコが「乗りません」と答えると「ダセー」という声が返ってきた。

ところでこの食堂は今イチだ。我々の食事中、団体さんが奥に入っていったが、まあどっちにしろ、たいした店ではなかった。

 

吐魯番賓館のロビーで、明日の一日観光ツアーについて再確認。「出ない」という答え。「洪水があるので」と、どうやら我々が来るときに水があふれていたが、それのことを言っているのだろうか。しかし、賓館前にたむろする客引きの若者どもはそんなことかまわずに「ツアーに行きましょう」と誘ってくる。どちらが正しいのか、どうもよく分からない。しかし若者たちは信用ならないので、吐魯番飯店へ戻り、こちらのフロントで尋ねてみると、ツアーは「出る」と言う。「洪水は大丈夫ですか?」と聞いても「没問題」だという。ここで明日のツアーを予約する。料金は1人50元とのことで吐魯番賓館(40元)より少し高いが、よしとする。

 

ウイグル舞踊ショーを見るために再び吐魯番賓館へ。ここで両替ができ、ほっとひと息。

舞踊ショーを見る。バンドの構成は、リズムを担当する太鼓(直径1mほどの革張り。筒はなく、鈴の無いタンバリンのお化け)・三弦の小振りギター・蛇味線のような楽器(上5弦・下3弦。腹は蛇皮のよう)・チェンバロ・歌姫。ベースがいないが、リズム太鼓がこれを兼ねているようにも思える。基本は1,3拍目が強く、「ドンツカドンカン」の4拍子。「ドンツカラッカッ ドッカッツッカッ」というのもある。全体の雰囲気は、コーカサスや中近東の音楽と通じるものを感じるが、ユウコの第一印象では「節の長い唄は津軽民謡に似ているね」。なるほど、たしかに節回しなどは似ている。それに、聴いていて違和感を覚えないのは、そういうことなのだろうか。

 

「ふるさと」を歌った。「アリラン」も謳ったような気がする。日韓それぞれの団体客のためのサービスなのだろうか。僕はこういう配慮があまり好きでない。

 

もうすっかり暗いが、街には人が繰り出し、むしろ夜の方がにぎやかだ。考えてみれば、真っ昼間は暑いばかりなのだから、外に出ても疲れるばかりである。我々も夜型にすればいいということか?

カラオケ通りがあった。飲み屋がそれぞれにカラオケマシンを出し、客が思い思いに歌う。うまくない人が多いが、カラオケは人気がある。「加拉OK」とある。おそるべし日本文化。