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8月5日(水) 西安 晴れ

 今日は移動日だ。午前中は休息とし、10時まで眠る。昨日の酒の影響か、僕1人がやや下痢気味である。が、却って腹の中がすっきりしたような気もする。

 

 荷物をまとめ、11時にチェックアウト。フロントで関西弁の若いカップルに声をかけられた。我々が着いたときと同様、火車站で旅社の人に声をかけられ、この宿を紹介されたのだという。しかも、紹介された段階で120元まで値切ったのだそうだ。なかなか根性がある。女の子がよくしゃべる。血気盛んという感じだ。「この宿、どうですか? 悪くないですよね、私もそう思うんですけどね、この人が『なんかアヤシイゾ』って言うんですよ。ねえ、この人たちも大丈夫って言ってるで。ここにしような。」「うん、ほな、ここにしよか。」女の子に比べて、男の子はおとなしく、なんだか頼りないが、どうも耳が悪いようにも見受けられた。彼女はその後もフロント相手に料金交渉を始めた。大した商魂である。中国語はぺらぺらの様子だ。

 

我々はフロントに荷物を預けて散歩に出る。

銀行で両替する際、僕はVISAカードを使ったが、手数料を4%も取られた。

 

ついに蘭州の知人から連絡が来た。なんでも蘭州に住んでいた知人は引っ越してしまったとのこと。残念。だが、連絡があって良かった。

 

しかし、そうと分かればわざわざ銀川まで行く意義が薄れる。連絡も来たので、この上はどんどんと進んでいきたいものだが、これは致し方ない。予約を変更するのも面倒だし、却って西安に長居することになるかもしれない。それでは本末転倒だ。これも天命だということだ。「時間があれば行きたい」と思っていた銀川だから、これで良いのだ。

 

鐘楼から鼓楼を見る方向に、真新しいデパートがある。「世紀金花」というらしいが、これは日本の百貨店にも劣らぬ立派なもので、内装も高級感があるし、輸入物ばかりだ。宝石・化粧・靴・スーツ。地下2階には食品フロアがあるので、列車に備えて食料を買い出しする。果汁100%ジュースは高い。牛乳も飲みたいが、少し勇気が必要だ。酒も冷やかす。蛇酒、ワインもあるが、いずれも高い。

 

列車の出発までまだ時間があるが、歩き回るほどの時間もない。デパートの周囲の花壇に、中国人たちに混じって腰掛け、なんとなく鐘楼を眺めていると、通りがかったカップルのような若い2人に声をかけられた。「コンニチワ」「Are you Japanese ?」

彼らは「あなたがたは中国人のように見えますね」と言い、そしてユウコが中国語をしゃべると知って驚いた。さらに「おいくつですか? 27? もっと若く見えますねー」と驚く。ユウコは御機嫌だ。男の方がよくしゃべる。「英語でしゃべるのは私の勉強になりますので」。なまりがきついが、それはきっとお互いさまなのだろう。2人とも学生のようだが、男性は日本びいきというか、ハイテクびいきというか、日本の製品はすばらしいと持ち上げる。AIWA, KENWOOD, SONY, PIONEER。なかでも「JVC(VICTOR)」が好きなのだという。日本ではビクターの人気は残念ながら今ひとつだと言うと、非常にがっかりした様子をみせた。「なぜですか? JVCは古い会社なのでしょう?」「だから人気がないんですよ。たしかにビクターには歴史と伝統と、それに培われた技術があります。しかし、AIWAやKENWOODのような新しい会社は、より新しいことにチャレンジします。それが日本人には受けるのです」。

 

いっぽう、女の子の方はあまり会話に参加しないが、男の話に依れば彼女は美大の学生で、鼓楼にギャラリーみたいな展示コーナーがあり、そこには彼女の作品もあるとのことだ。「よかったら見に来ませんか」。時間もあるので暇つぶしにはいいかなと思うが、ユウコは乗り気でない。「この人たち、あやしいよ」と訝しむ。なるほど、実は学生風情を装って、実は土産屋の客引きなのかも・・・と思うと、都合良く現れた偶然といい、下手ながらも使い慣れた英語といい、すべてが納得できるような気がしてきた。我々が乗り気でないと知ると、女の方は「仕事があるからギャラリーに戻ります」と去っていった。男の方はしばらく我々と話をして、それでも誘いをかけてくるが、やはり客にならないと知ると彼も去っていった。

 

尚徳飯店で荷物を受け取り、いよいよ火車站へ向かう。

 

ユウコの発見によると、1人2元の「空調代」というのは駅待合いの空調代のことらしい。たしかに、待合室はクーラーがよく効いている。

 

我々が乗り込んだ西安発銀川行き595次直快には「西夏“碑酒”号」という名前がついている。寝台のシートやカーテンも、列車名をプリントしたものになっている。よく見ると「碑酒精品西夏王」とある。なかなかしゃれている。さらに、この列車は上海から来るときに乗った390次に比べて清潔感もあるし、お客さんも落ち着いているし、列車員たちも優しく愛想がいい。乗客もやや少なめで、しっちゃかめっちゃかなところもない。みな、マナーがいいようにも見える。

 

いよいよ寧夏回族自治区の区都、かつて西夏の都として栄えた銀川へ向かうのだ。

 

となりのコンパートメントには日本人らしい旅行者が1人乗っていた。一人旅は孤高である。彼には言葉がいらないように見える。もっとも、それはそう「見える」だけで、彼も話し相手を求めているのかもしれないが。我々は声をかけるすべを知らない。

 

食事は、ひまわりの種・ビール・カップラーメン。我々も中国人に負けずよく食べるようになってきた。我々は中補なので通路のテーブルと椅子を利用するが、隣では下輔のおじさんたちがスイカをうまそうに食べている。

 

8月6日(木) 車中にて 雨 すずしい

夕べウトウトしていたら妙に騒がしくなった。ユウコに宝鶏だと教えてもらった。なるほど、人の出入りが激しい。が、僕は眠い。ぐうすか眠る。あとで時刻表を見ると、夜9時過ぎのことだった。

 

 7時起床。昨日からポツポツ雨が降っている。朝は涼しい。昨日の出発時には全開だった窓は全て閉められていた。乗客の朝食はカップラーメンが多い。みな同じ「清真牛肉麺」を食べている。我々は昨夜に食べてしまったが、たまたまデパートで選んだもので、同じものを食べていると思うとなんだか嬉しくなる。そしてこの牛肉麺はうまいのだ。

 

 トイレも比較的清潔が保たれ、水も流れる。上海からの列車は水が止まったためにモノが置き去りにされて大変だった。水洗便所が没水になるのは見苦しい。昔の国鉄式「落っこちる便所」の方がよほどきれいに思える。

 

 外は風が強いようで、高木がしなっている。

 

 通路の窓の上部、ちょうど網棚の下に細い棒が棚と平行にかかっている。これが当初からタオル掛けの役割を持っていたかどうかは知らないが、ここにタオルをかけておくのが中国人の風習らしい。これは前の列車でも見てすでに学んでいた。そこで、前回に倣って今回もタオルをかけておいたのだが、あるとき列車員がやってきて、僕のタオルのかけ具合を直していった。上海方面とはかける方式が違うのか?

 

 車窓にはやがて畑が無くなり、ステップが広がるようになる。羊の群に会う。おかしな形をした山が右手に見える。

 

 10時半、定刻よりやや遅れて銀川に到着。相変わらず出札の手際が悪く、駅を出るまでにまた行列を作って押し合いへし合いとなる。最初から列に並んでおけばいいのにと思うが、中国人はせっかちだ。割り込みが横行する。

 

 銀川を選んだ目的は、西夏の王様たちの墓、西夏王稜を見るためにある。街から離れているのでツアーで行くか、車をチャーターしないと行けない。ところで、銀川の火車站は市街からずいぶんと離れたところにあるため、次の切符を今買っておかないと効率が悪い。ということで、銀川には2泊することに決め、さっそく次の目的地、蘭州までの切符を買った。チケットは難なく手に入った。ユウコに感謝感謝だ。

 

 銀川は街が大きく「新城区」と「旧城区」に分かれているが、観光名所があるのは旧城区だ。駅を出てタクシーの客引きを無視しながらバス乗り場へ。

 

 バスの乗員は、口は悪いが親切だ。バスものんびり走る。40分ほどで旧城区の中心に出る。まず目に入ったのは緑州飯店だが、ここは外人不可。そこで銀川飯店に行く。ここは2人部屋だと乙級が48元だが、シャワー・トイレが共同。シャワー・トイレ付きの甲級なら108元。共同シャワーでも泊まることはできるが、あまりに殺風景な部屋の雰囲気を考えると快適ではない。甲級もさしたる部屋ではないが、甲にする。エアコン付きの標準間が118元なので、せめてもの節約だ。

 

 今日は街を散歩し、かつ明日の西夏王稜ツアーを探すのが使命だ。ツアーを探すには旅社を見つければよく、それはたいてい大きなホテルに入っているものだ。見つけたそばから当たってみる。まずは豊寧賓館へ。しかしここでは我々の説明を理解してもらえず、そして彼らの説明も理解できなかった。置いてあるチラシに「沙湖賓館」の文字があるので行ってみる。しかし沙湖賓館のフロントの説明では「明日のツアーはありません」とのこと。これは困った。団体客でもないとツアーはないのかな。

 

 そこでCITSへ行ってみることにした。

 

 入り口のシャッターが閉まっている。休みなのか・・?と、そこでうろうろしていると、とつぜん「あのー、にほんじんのかたですか?」と後ろから声をかけられた。ジーンズ姿、細身でショートカットのかわいい女の子が立っている。彼女はスタッフらしい。「きてください」と、シャッターを開け、建物の3階に案内される。どうも昼食休憩中だったようだ。

 

 オフィスには2・3のスタッフがいる。みな若い。そして、みな日本語をしゃべる。「西夏王稜に行きたい」と言うと、車・ガイドもろもろ付けて300元という答えだ。1人あたま150元、ちょっと高過ぎはしないか。「ガイドは必要ない、車だけでいい」と聞き返すと、今度は「それは我々のサービスではありません。我々のサービスにはガイドがつきます。必要でないなら、自分で車を見つけます」。自分でタクシーに交渉しろと言っても、相場が分からないし(今言われた値段は参考にはなるが)、妙なトラブルに巻き込まれるのはイヤだ。旅社なら、そういう心配は少ない。でも、高いなあ・・・と渋っていたら「ボスに聞いたら、260で良いということになりました」とまかった。

 

 さっきの女の子、オフィスにいた男の子、そして運転手と、5人で連れ立っていくことになった。運転手とはいっても車は軽バンのタクシーで、要するにタクシーをチャーターしたのと変わらない。それよりなにより、こんなに連れ立っていく必要はないのになあ。

 

女の子は胡さん。男の子は沈さん。胡さんは「親善交流」で鳥取に行ったことがあるという。来年も日本のどこやらへ行く予定があるとのことだ。道すがら、沈さんがいろいろと説明を試みるのだが、どうも日本語がよろしくない。むしろ胡さんのほうが日本語が上手らしく、ときおり補足説明を入れる。2人とも学生のバイトなので、これはつまり我々のためというより、彼らのための研修ツアーのような感じがしてきた。

 

 「あちらは民族大学。回族をはじめ、少数民族の大学です。こちらは漢人の大学です」

という話を受け、彼らの民族を聞いてみると、沈さんは漢族、胡さんは満族という答えが返ってきた。運転手も漢族だと言う。この運ちゃんのほうがよほどおしゃべりで、むしろガイドには彼こそふさわしいと思うのだが、残念なことに彼は日本語を話せない。ガイド2人がいなければ、ユウコにとっては中国語で話をする絶好の機会だったかなと思うと惜しい。それで思い出したが、このタクシーは、我々がCITSに来たとき、すでに脇に止まっていたような気がする。もともと客待ちだったのかしら。やはりCITSに頼んだのは金の無駄だったか・・・。

 

 雲が切れて太陽が見えてきた。正面やや右手に見える山は「賀蘭山です」と、これが美しい。その麓に王稜が見えてきた。周囲は平原、向こうに山脈、そこにぽっかりとした土まんじゅうのような土山が、ポクポクとあちらこちらに見える。陽の光に映える。おお、なんだか神々しいぞ。

 

王稜自体はいくつもあるのだが、メインとも言うべき李元昊の墓「泰稜」の手前に車を止める。運ちゃんは休憩。王稜を見に行くその前に、ガイドの2人に博物館へ案内される。しかし我々の入場料は手前持ちである。ますますおもしろくない。

 

 館内のガイドは博物館スタッフの女の子の担当となる。まず彼女が中国語でしゃべる。それを沈さんが日本語に訳す・・・という形式だが、中国語の分からない僕が聞いても、彼は説明の半分も訳していないことは明白であった。その上、ちょいちょい言葉に詰まっている。展示物には漢語で説明が付いているから、口頭のガイドなんぞはもはや不要だ。我々はいらいらしてきた。しかし、そっぽを向いていると「こちらの説明をしますので聞いてください」と言う。完全にガイド研修である。我々はなめられているのだろうか? 話半分で地図ばかりを見入る。

 

 しかし、王稜はすごい。王稜見物には運ちゃんも同行した。王稜はつまり古墳であるが、この高さ20mほどの土饅頭には当時、瑠璃などできらびやかな装飾がされていた・・・と、これは博物館で得た知識である。王稜の脇には大きな穴が掘られたような跡があるが、これは「遺体はここに埋められます。しかし、モンゴル人が全て掘り出し、焼きます・・・た。王稜の飾りも全て、モンゴル人が取ります・・・た」とのことだ。

 

 これだけでも見に来た甲斐はあったと思うが、それにしてもなんとお粗末なガイドだろう。これならやっぱり自分でタクシーを捕まえた方が良かったのではなかろうか。

 

 泰稜のほか、大きな王稜としては李元昊の先代、先々代の墓(裕稜と嘉稜)がある。これは本を読んで知っている。彼らも「もう少し先に別のお墓があります」と言う。しかし、そこに行くにはさらに30元かかるという。ちっとはまけてくれよ、と思うことすら馬鹿馬鹿しくなって、このまま銀川に帰ることにした。帰路では話の種がなくなってしまったのか説明もなく、ユウコは居眠りに入ってしまった。あるいは沈さんもウトウトしていたのかもしれない。言葉さえできれば運ちゃんとも話ができたのにと思うと悔しい。

 

 それにしても、明日行く予定の王稜を今日見てしまったので、明日やることがなくなった。床屋でも行こうかな。出発を早めたいところだが、予約の変更には手数料もかかるだろうし、駅での手続きがやっかいになるだろうからやめる。

 

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