1230日(水) ブダペスト 晴れ

 

【次への準備はビザ取りから】

 昨晩は帰宅が遅かった上に、宿に戻ってからもキッチンでおしゃべりをしていたので、床に就いたのは午前1時であった。だから今日は少しのんびりといきたいところだが、年内にビザを申請しておけば、年が明けてからビザが取れるだろう・・・と思うと、そのためにはチンタラしているわけにはいかない。

7時半に起床。9時に宿を出て、まずはスロヴァキア領事館へと向かう。イチさんから頂いた地図が非常に役に立ち、バスに乗って9時半に着いた。

今までの経験によれば、どこでも領事館や大使館は常にビザ申請者の集団や行列ができているものだが、この領事館には「お客」が見えず、閑散としている。

「まさか、休みでは無かろうか」と危惧するが、幸いにも開いた。プレートには「830-1100」とある。

ビザ申請窓口のオネエサンは親切だ。壁に掲示された書き方を見ながら申請書を書き、パスポートに添えて提出すると、「ビザ発給まで10分ほど待っていてね」と言う。僕はてっきり、「午前申請、午後発給」とばかり思いこんでいたので、思わぬ喜びであった。

そして、ビザがスタンプされたパスポートが、彼女の笑顔と「Have a nice trip !!」という元気な声とともに返ってきた。ビザの申請でこれほど心地よい応対を受けたのは初めてだ。他に客がいなくて心に余裕があるのか、スロヴァキア人はみな、かくも心優しい人々なのか。ともあれ、我々はすこぶる機嫌が良くなった。

 

天気も良く、元気の出た我々は、そのままポーランド大使館へと急いだ。またまた地図が役に立つ。この地図はバス路線が詳細に書かれているので、とても有り難い。着いたのは1045分であった。ここのビザ申請窓口にはツーリストらしき申請者が、チラホラいる。日本人も2人見かける。申請から1時間後の即日発給は58ドル、翌日発給は46ドル。申請/発給は9001400。ただし明日は大晦日なので、11時で「閉店」。12ドル×224ドルの節約のため、パスポートは明日取りに来ることにして翌日発給で申請する。それにしても、年内に2つのビザが取れるとは思ってもみなかったので、思いもかけず喜ぶ我々であった。すばらしい。

 

【日本からの「差し入れ」を取りに】

 あとは日本大使館に荷物を取りに行くだけだ。「うまくいけば主要な仕事が今日中、つまり年内にかたづくぞ!」と期待が膨らむ。

トラムに乗って、大使館に行くバスの発着所モスクワ広場へ行き、確認のため電話をする・・・と、留守電であった。

話はうまくない。日本大使館は「日本のお役所」なのである。

つまり、御用納めは1228日、仕事始めは14日。12/291/3は年末年始休暇だ!

 

じつはこれは予期していたことだったのだが、現実を目の当たりにして我々はがっくりしてしまった。

「残念だなあ。昨日、真っ先に日本大使館を目指していたら、荷物は受け取れたかもしれないなあ」

とも思うが、後の祭りだ。だいたい、それをやっていたら、イチさんから情報を得られることはもちろん、知り合うこともできなかったであろう。正月明けて4日に取りに行けばいいことだ。

 

【ナイスなさービス、ナイスな雰囲気、ゆるむ財布のヒモ】

 良い時間なのでレストランCSENDESで昼食を取る。食べ終わってよくよく考えると、結構良い値段だったことに気づく。が、味も良いので許す。どうも通貨の感覚が鈍っているような気がする。フォリントに馴れていないというか、いままでマルが多い通貨ばかりだったから、日本円の2倍程度の数字だと、なんとなくピンとこない。「食後のコーヒーは如何でしょうか」と勧められたコーヒーは150フォリントで、ついつい頼んでしまったが、ルーマニアで同じ値段なら8000レイだ。たぶん頼まないと思う。

 

 ブダペストの銀座、ヴァーツィ・ウッツァを散策し、インフォメーションセンターをみつけてライブ情報をチェックする。その後、ATMでキャッシング。そして写真を現像すべく写真屋を探すが、いくつか回ってみると、どこも出来上がりに1週間近くかかるという。これは正月と土日を挟んでいるせいだが、とするとExpressでやってもらうしかない。そうなると値段が高い。ならばカードで支払いを、といきたいところだが、カードを使える店は限られている。それで、少々値段が高く不本意ながらもPORST-FOTOなる写真屋に頼むことにした。どうやらDPEチェーン店のようだが、店内は明るく、値段も明瞭。日本のDPEショップよりも進んでいるのではないかと思う。

 

 その後、食料等の買い出しに出かける。明日は大晦日で、ほとんどの商店がお昼で店じまいをする。明後日は元旦で、終日休み。2日、3日は土日と重なるため、これまた多くの商店が休みになる。街の機能がストップしてしまうのだ。

ヴァリの宿ではキッチンが使えるため、「久しぶりに料理ができるね! 正月気分を味わえるような料理ができると良いな」と、裕子はやる気十分だ。

 

 ところで、ルーマニアのレイはどこの両替所でも扱ってくれないが、一軒だけ両替可能な店を発見した。レートは悪いが、このまま持っていても紙屑である。フォリントに替えることができて良かった。両替をして「名残惜しいな」と思ったのは初めてだ。

 宿に戻ってヴァリさんに「シャワールームで洗濯して良いか」と聞くと、洗濯機を使うよう言われる。洗濯の量に関わらず、使えば一回4ドルだという。

 

☆明日の仕事は

 ポーランド大使館にビザを取りに行く

 写真を取りに行く

 洗濯洗剤を補充する

 歯ブラシを買う

 

【コンサートへ行くのだが】

今日は夜8時から王宮のマーチャーシュ教会でコンサートがある。買い出しを終えて夕方部屋に戻り、一息ついていると、ヴァリさんがやって来て、

「グラーシュをお食べなさい。プレゼントよ!」と言う。

なにがどうプレゼントなのか分からないが、キッチンにはケン君とノリ君もいて、

「僕らにもくれるって言うんですよ。なんでしょうねえ。この人、気まぐれだからなあ」

「金を盗まれた僕らを哀れんでいるのかなあ」

と、首を傾げている。

ともあれ、4人でグラーシュとワイン1杯ずつ頂く。ワインは少しピリッとして、これがうまい。グラーシュは思わずおかわりをしてしまった。

 

食後、我々2人はコンサートに出かける。意外とお客さんは多い。中年層が目立つ。当日券でも大したことはないだろうと高をくくってノコノコとやってきたのだが、12000フォリントだという。「3000フォリントの席もある。こちらのほうがオススメだ」と言われるが、予想外に料金が高いことに驚き、「そこまでして聴きたいものではないから」と、一旦は教会を後にする。

しかし、「こんなに高いとは思わなかったね・・・だけど、やっぱり気になるな・・・」と、教会を振り返り、5分ばかり迷う。

「やっぱり聴いてみたい!」 と、2000フォリントのチケットを買って中に入る。

 

インフォメーションセンターでもらった案内によれば、クリスマスコンサートという位置づけでバッハの何かをやるらしい。マーチャーシュ教会の「売り」は大きなパイプオルガンにあることを知っていた僕は、「パイプオルガンをやるのだろう」と期待していたのだが、残念ながらオーケストラとコーラスであった。よくよく案内を見れば、「バッハのオラトリオ」と書いてある。バッハの音楽を聴くのは久しぶりだが、強弱のアクセントが少ないせいか、やや単調である。しかし聴けば聴いたで面白いもので、「作曲当時としては、ヘビメタの如く飛び抜けていた音楽だった」という誰かの話も、うなずける。ただ、オーケストラもコーラスもミスが多く、感動は今ひとつであった。

 

10時に帰宅。

 

ところで、僕はハンガリーに対して別段の思い入れがない。ルーマニアやブルガリアに比べると、はるかに思い入れは少ない。そのせいか、どうも言葉を覚える気にならない。しかも、ブダペストにいる限りにおいては、「マジャール語を覚えなければならない状況」にはならない。街中にも旅行者は多い。日本人も多く、さすがに拒否感を覚える。ブダペスト以外の地、たとえば地方の田舎やワインセラー巡りなど、行けば行ったで面白いのだろうが、それほど行きたいとは思わない。我々にとっては、ハンガリーを知るための「決め手」にかけるでも言うべきだろうか。僕にとっては、ハンガリーはチェコと同様「早くから民主化された文明国」であるが、同じ文明国ならチェコの方が断然面白そうだし、ワインツアーに行くなら、フランスの田舎にでも行ったほうが面白いのではないかと思う。トランシルヴァニアのハンガリー人村には、ちょっと行ってみたいが、ハンガリーの村には行ってみたいと思わない。まあ、つまるところ、「知らない」からなのだろうが・・・。

 

コンサートガイドをひととおり眺めた。明日は目当てのコンサートの値段をチェックしに行ってみよう。

 今日も暖かいが、帽子がないと少々辛い一日である。