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【テヘランの日々】

 空気は非常に乾燥している。朝晩は非常に涼しく過ごしやすいが、洗濯物はひと晩で完全に乾いた。

ホテルを替えるため、昨日も訪ねたホテルハイヤムに行く。安い部屋というのは60,000リアルだがシャワー・トイレがなく、それらが付くと80,000リアルになる。僕としては、トイレぐらいは共同でも良いのだが、ホテルの廊下でも頭を隠さねばならないユウコはそれを嫌い、我々は80,000リアルの部屋に泊まることにした。朝食も付いているのが嬉しい。

 ホテルハイヤムの部屋は「アラーの名において」洗濯が禁止されている。しかし、夜シャワーを浴びるついでに洗濯して室内に干しておけば、朝にはすっかり乾く。片づければ誰にも分からない。もっとも、こうでもしないと部屋が乾燥して、寝ている間に喉を痛めてしまうのだ。

 

【日本に電話する。そのまえにティッシュペーパーは日本製】

 「落ち着いたところで、実家に電話をしたい」というユウコの要望に応えるため、メイダネ・イマームホメイニに面している中央電話局に行くことにした。

 電話局の入り口には15歳ぐらいの警備兵が2人、立っていた。肩に小銃をかけている。警備とはいえ呑気なもので、顔立ちはまだまだガキ臭く、やるべき仕事もなく談笑していた。彼らの前を行きすぎようとすると呼び止められ、荷物チェックをされた。そのとき、僕のサブバックの中からポケットティッシュが出てきた。日本の薬局でもらったものだが、裏紙には軟膏(ファイザー製薬 ジャスコートジェル)の宣伝がある。「肩こり、腰痛に効く」この軟膏、女性の後ろ姿を魅せた半裸の写真があり、頭髪はもちろん、うなじから肩、背、腰にいたるまでばっちり丸見えである。顔は見えぬが「見返り美人」よろしく、身体をひねらせているので、ウェストのくびれがセクシーである。といって、これを見た日本人が「卑猥だ」と思うことはまずないであろう。だって、駅前で配っているティッシュなんだもの。

しかし、イランの若い青年にとって、この写真は、日本の中学生がとつぜんハードコアポルノの写真を見たときの衝撃に近い物を与える写真であったに違いない。1人の警備員はそれを見た瞬間、目尻は垂れ下がり、鼻の下は延び、口はだらしなく開き、まさにスケベ丸出し、「うひょぉ」と声も出さんばかりの表情を、我々に恥じることなく、さらけ出す。そして、同僚を肘でつつき、「どうだこれ、すげえぞ」と、まさしく、一少年が初めて青年誌を拾い読みしたときのような、嬉しいやらイヤラシイやら恥ずかしいやら照れくさいやら、表現のしようがない顔をする。僕としては差し上げても一向にかまわないのだが、さすがに同僚はヤバイと知っているのか、むっつりとした表情を崩さず、見てはいけないかの如く、女体にはちらりと目を向けただけで、あとはそっぽを向いてしまった。「これ、もらっちゃおうか」と言われても、「なにしてんだよ、はやく返してやれよ」と、不愛想に返答するのみであった。そしてそのティッシュは、回収されずに僕のもとに戻ってきた。

 

【国際電話のかけ方】

 電話局は広い受付があり、奥に電話ボックスがいくつも並んでいる。ボックスの扉にはそれぞれ番号が打ってある。電話は勝手に借りることはできず、まず受付で、「氏名、相手先の番号、相手先氏名」などを用紙に書いて申請し、しばらく待つ。やがて、「サトー、サトーは4番で電話を」というようなアナウンスがある。そこで4番のボックスに入る。そこには電話機があるが、自分でかけることはできない。受話器を取ると交換台の声が出てきて、「かけますよー」みたいなことを言われる。「はいはい」と答えてしばらく待つと、やがて相手につながる。

両親は2人とも元気そうで安心した。写真も無事に届いているとのことだ。

 

【ハンバーガーショップに行く】

 ハンバーガーショップがあったので、そこで食事をする。店内にはバーガーキングのポスターなどが掲げられているが、ここはバーガーキングではない。よって、出てくるハンバーガーも、バーガーキングのような立派なものではない。でも美味しい。2人で食事をしていると、日本語で話しかけるお助けマンが現れた。

ハンバーガーショップを出て、帰りのバスを探していると、ここでも英語のお助けマンが現れた。大都市で、ここまで外国人に優しい人々が多いというのは珍しいのではないかと思う。困った顔をしていると、必ずどこからともなく登場する。困ってないのに登場することもあるが、いずれにせよ、この精神というか、イスラムの教育なのか、元来ペルシャ人は外国人に親切なのか、すごいことだ。はじめは「なにか下心があるのでは」と警戒する我々だったが、自分でも少しずつ解放されているのが分かる。勝手が全く分からないだけに、何でも人に聞くのがむしろ当然になってくる。バス乗り場はどこか、チケット売り場はどこか(どこかと聞くと、くれることが多い)、博物館はどこか・・・。

 いやいや、中央アジアとの違いは大きい。これまで旅してきた、いわば田舎の人々は、たしかにやさしい。バスに同乗して声をかけてくれたり、なにかと気を使ってもらったこともある。しかし、けっきょくのところ、彼らは我々を好奇のまなざしでしか見ていないような気がする。親切ではあるが、どこか愛想の無さを感じる。田舎臭いだけなのか、あるいはソヴィエト教育の結果なのか・・・。親切の根本というか、本質が異なるという気がするのだ。なにかが違う。

 

【女子向けワンピースコートは旅の必携品】

 絨毯博物館に出かけた折り、近所の繁華街を散歩がてらウィンドウショッピングに出かける。人通りは多い。別に何を目的ともして歩いているわけではないのだが、英語をしゃべるお助けマンが登場した。学生風の、がっしりした体格の男である。彼はデート中だったらしく、2人の女性を連れている。それにしても、イランの青年は親切だ。とくに困っているわけでもないが、女性向けの服屋を教えてもらう。いま、ユウコはワンピースがわりに山吹色のレインコートを羽織っている。頭はフードをやめて、前もって用意してきた紺のスカーフをかぶせているが、レインコートは僕から見ても珍妙に見えるし、熱がこもって暑いと言っていた。それで、多くの女性が来ているような紺あるいは茶色のワンピースコートを買うことにしたのである。少々値は張ったが、これからひと月をイランで過ごすためには必需品だ。これで少しイラン人にもなじむことだろう。

 

 テヘランは暑い。今日も2728℃はある。夜は涼しいが、朝方は寒いというほどではない。夜はハガキなどを書いて過ごす。E-mailはまる1ヶ月出していないが、最近はどうでもよくなってきた。ただ、やはり前の職場で仲の良かった人々からの情報は気になる。