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120日(水)グダンスク 晴れ

 

【なんとなーく、一日】

 あとから結果だけを考えると今日の一日は無駄だったのかもしれないが、そんなことを言い始めるとキリがないのでやめよう。

いずれにせよ、今朝は宿のオバサンに「朝5時からトイレを何度もガタガタと使って!」とこぼされた。うるさかったようなのだが、我々は朝5時には起きていない。それに、静かに使っていたつもりだったが・・・。

おとといも「シャワーは15分で使いなさい、と言ったのに、2人合わせて20分も使って! ガスが爆発してしまう!」と怒られた。

それで昨日は「シュネル、シュネル(ドイツ語「素早く!」)」と彼女の口振りを真似てシャワーを浴びていたら、その後にユウコは抱擁を受け、茶までくれる始末。よくわからない。

そういえば、昨晩のうちに、今日出ていく時刻を知らせておけば良かったのだ。気に病んでいたのかも・・・と思うと申し訳ない。

 

 

【ヴェステルプラッテ】

そんなこんなで朝10時に宿を出る。鉄道駅に荷物を預け、とくにやることはないので、

「ヴェステルプラッテ(Westerplatte)にでも行ってみよう」ということになった。

ここはグダンスク港の突端であり、運河とバルト海に挟まれた場所であり、193991日、ドイツ軍が予告も無く砲撃、上陸を始めた土地である。圧倒的なドイツ軍団を、たったの182人で1週間も持ちこたえたという(しかもポーランド守備隊員だけでなく、郵便局員も混じっていたらしい)。そういうわけで、バルト海を見下ろす小高い丘の上に平和の記念碑があるというのだ。

 

 しかし、行こうとはしたものの、バス停はあるがバスのチケット売り場がない。歩き回って、鉄道駅から伸びる地下通路の一角にようやく発見した。

そして、バスに乗ったはいいが、逆方向だったらしい。客はどんどん降りる。辺りは寂れた雰囲気になる。とうとう終点に来てしまった。

バスの番号は間違っていないので、このバスにそのまま乗っていればきっと反対側の終点がヴェステルプラッテなのだろうが、帰りのバスのチケットは買っていない。

バスの運転手に身振り手振りで「ヴェステルプラッテに行きたい。バスを乗り間違えた。このチケットは使えるか」と聞くが、相手にしてくれない。

そこでチケット売り場を探すが、さびれたバスターミナルにはなにもない。通りがかった初老の婦人に「チケット売り場はドコデスカ?」と尋ねたら無視された。

 

ああ、早く出たいポーランド。

 

 ようやくヴェステルプラッテに着いた。

ヴェステルプラッテの記念碑の前に立つと、目の前の川向こうは工場が建ち並んでいた。ほかには何もない。

 

 市街へ戻って、インターネットカフェに行く。が、あやしいバーの一角にある上、今日は予約でいっぱいとのこと。

観光案内所で尋ねると「郵便局に行けばいいわよ」という。それでメインポストに行ってみると、「ここより東側、2軒隣の建物にインターネットコーナーがある」と案内された。明るいショールームのようなところで早速使わせてもらうが、30分たったところで「次の予約がありますので」と席を立たされてしまった。ここも予約でいっぱいである。

「いつも人気があるんですか?」と聞くと、今日はポーランドTelecomのデモンストレーションとかで、無料なのだそうだ。

 時間もなくてメール受信しかできなかったが、友人知人からのメールが来ている。関東は寒いらしい。

「朝の最低気温は−2℃〜−5℃。最高気温は8℃」と知らせる人もある。

 

【ジョー・ブラックと10ドル札】

 やることもないので映画でも見に行こうということになった。

どうせ見るなら、せめてアメリカの映画にしよう。そうすれば英語だから、多少は話が分かると思ったからだ。そう思って歩いていると、ある映画館で「Meets the Joe Black」なる映画をやっている。主演はブラッド・ピット。副主演にはアンソニー・ホプキンスとある。1545分開始とのことでちょうど良い。薄暗い入り口から入り、そのアメリカ映画は15:4518:40の上映であった。

 

 映画はオリジナルの英語で、ポーランド語の字幕が入る。会話の詳細は半分も分からないが、大まかなストーリーと、笑いどころぐらいは押さえられる。見どころもあり、退屈することがなく過ごしたが、オチがどうもよろしくない。あまりにも呆気ないというか、前半の重厚さに比べて、最後は安直なラブストーリーになってしまった気がする。

 

それよりも、ブラッド・ピットが朝食のカフェで、カウンターで支払いを簡単に済ませるシーンのほうが印象的であった。ケンタッキーフライドチキンで夕食をとりながらのユウコとの会話。

「ポケットから5ドル札出てきたよね」「うん、よれよれのやつね」

「全部で10ドルぐらい払ったかね」「2人分だから、もっとじゃない?」

「アメリカのカフェって、高いんだね」「それもそうだけど、米ドル使うんだよね、当たり前だけど」。

今の我々にとって、米ドル札は現地通貨に両替するための「換金券」でしかない。映画の舞台はアメリカだから、米ドルが日常に使われるのは当然である。そのギャップが、ちょっとおかしかった。

 

 けっきょくファストフードの店が気分的に落ち着き、のんびりできる。今日の日記もここで書いている。

 

 

【最後の恐怖、果たして我々は、無事リトアニアに行けるのか】

 バスは2020分に出るのだが、20時前にバスターミナルに行く。

待合い室はすいていたが、雰囲気が悪く、地下にあるためにバス乗り場の状況が見えない。

バスに乗り遅れるのではないかと心配し、外灯の下、乗り場の前で待つ。

 

ほどなくバスが来た。「あれか?」と思うが、バスの時刻はまだ先だ。これは郊外バスの、しかも到着便であった。

バスが去る。静寂が来る。待ち客は少ない。

「まだか、まだか」と気になるが、これは、「乗り遅れたくない」というより、「一刻も早く乗りたい」という意識の現れなのであろうか。

 

集団スリの恐怖がまとわりつく。

バス待ちなのか、男が数人ほど、我々の周囲にいることに気づいた。

誰も彼もが悪人に見える。

 

彼らはひとつところにじっとすることなく、バスターミナルをうろうろしている。

気になるので観察していると、明らかに所在がない。我々はターミナルの建物を背にしてバスを待っているが、たとえばある男が右の角を曲がってターミナルの建物の陰に消えたかと思うと、やがて同じ男が、左の角から現れる。ゴミ箱を覗いたり、掲示板を眺めたり、ビニル袋を手にぶら下げて、いかにもアヤシイ。

痩せた男。

太った男。

 

彼らがもしもグルであったら、どのように対処すればよいか? 緊張と恐怖と、寒さで、手が冷たくなっている。

ユウコの体がふるえている。自分の顔に血の気のないことが分かる。早く、早くバスが来てほしい。たった20分のバス待ちが非常に長く感じられる。

 

「寿命が縮まるとはこのことだ」。僕はつぶやいた。もういやだ。

 

 やがて、バスが来た。

うろうろしていた彼らは、すぐには乗り込もうとしない。

我々は彼らに襲われないことを確認しつつ、逃げ込むようにバスに乗った。けっきょく、存在が気になっていた男どもはみんなバスに乗った。席は余っているが、乗降口近くに立っている。バスが出発してほどなく、みなそれぞれに停留所で降りていった。だれも国境を越える者がない。

 

「あいつもアヤシイ・・・ こいつもアヤシイ・・・」。

 

あやしいと踏んでいた数人の男のうち、最後の1人が降りるまで15分も経っていないと思うが、僕はその間、彼らから目を離すことができなかった。

 

バスは定刻に発車し、夜中の街を走る。沿道に人の気配はない。街の電飾が美しい。

 

(バルト三国編に続く)