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1114日(土) ドゥバヤジット 曇り

 

【カルス行】

 6時起床。もう明るい。朝食時に茶をフロントに所望するが、朝のサービスはないとのこと。

Y君と7時にロビーで待ち合わせ、バスの発着所に行くと、ウードゥル行きのミニバスというのは定員10名ていどのドルムシュであった。人が揃えばすぐに出発らしく、客の集まりはよい。我々も座席を確保し、Y君が「朝飯食ってきます」と言って場を離れると、間の悪いことに満員になった。運転手はすぐに出発したいようだが、Y君が来ない。我々2人と運転手がハラハラしながら10分ほど待った末、彼は爪楊枝をシーシーやりながら呑気に戻って来た。

バスは8時に出発し、アララト山の西麓を北上する。山は近い。沿道は乾燥地だが、200mほど離れると湿地帯が広がり、乾燥地との境目に牧畜農家の家屋が転々とした集落がある。家屋の間隔は20mほどか。土造りの簡素な平屋造りで、屋根はなく、家は四角いマッチ箱のようだ。家屋の間には飼い葉の山が、家と同じくらいの大きさで、これまた転々としている。アララト山を背後に控え、朝食の支度をしているのであろう、朝靄の中、どの家屋からも白い煙が上がっていた。

 

 バスに揺られながら、Y君と双方のここまでの道中を話し合う。

Y君の旅の出発点はインドのデリーだという。そこから「アジア横断」を片手に西へ進路を取り、パキスタン、イランを経て、数日前にトルコに入った。いったんドゥバヤジットに入ったあと、南進してワンの町を訪れたという。「ワン湖がすごく綺麗でしたよ」。

その後再びドゥバヤジットに戻り、今こうして我々と旅を共にしているわけだ。長旅にも関わらずコンタクトレンズをしており、今朝も「レンズの調子が悪くて」と目に涙していたが、濃紺のジーンズもジャンパーもパリッときまっており、髪も短く切り上げ、整髪料も塗っている様子で、とても長旅をしている風貌には見えない。

「イランで、物価安いと思いました? ああ、お二人は中央アジアから来たら、そう思えるかもしれませんね。トルコ以外では、僕の旅行中で一番高いですよ。インドから、だんだん高くなる。イランまでは安かったですよー。トルコに入るまでに500ドルぐらいしか使ってませんよ」と笑った。

スマートでハンサムなのだが、さきの爪楊枝が象徴するように、「どこかオッサンくさく」感じられる部分がある。ユウコもそう言っている。さらに、我々を同年齢と思っているのかもしれないが、僕から見れば5歳は年下であろう。ときおりタメ口をたたくのが気になる。しかし気になった次の瞬間、「俺も心が狭いなあ」とも思うのだ。悪く言えば「礼儀を知らない」ということになるが、良く言えば「ちょっと小生意気な学生」ということになるか。声の調子が大学時代の後輩に似ている。

 

9時、ウードゥルに到着。目の前に定員20名ていどのミニバスが停まっている。これがカルス行きのバスだと教えられ、乗り込む。

カルスには11時半に着いた。

 

【カルスのツーリストオフィスでアニ遺跡観光の手続きを・・・】

今日は土曜日なのでツーリストオフィスは午前中で閉まるのだが、Y君によれば「電話ですでに連絡を付けておいたので、午後2時まで開けてくれているはずなんですよ」とのことだ。ツーリストオフィスの場所が「アジア横断」と違っていたので3人してうろうろしたが、なんとか見つかった。そこは2階建てのテナントビルで、建物に入った中央にホールがあり、それを囲むように事務所がいくつも存在する。そのうちの1つがツーリストオフィスになっている。トルコの観光宣伝ポスターなどが貼られているのすぐに分かった。

しかし人はおらず、鍵がかかっている。

「俺が『2時に行く』って言ったからかなあ」とY君が言うので、ここはひとまず引き上げ、先に宿を探すことにした。彼と我々とは趣向が違うだろうから一緒に探すのはどことなく気まずい。最初に訪ねたHotel Kervansarayはトイレ・シャワー付きの2人部屋が4,000,000(約14ドル)と、我々にとっても少し高めである。Y君はディスカウントを試みたが応じてくれない。それで他の宿も当たってみるが、満員だったり、雰囲気悪かったり、シャワーがなかったりと良いところがない。けっきょく我々は観念してKervansarayに泊まることにした。Y君「僕はもう少し探します。あとで会いましょう」。

 

午後1時過ぎに落ちあい、再びツーリストオフィスに行く。「部屋、見つかった?」と聞くと、「ええ、1,000,0003.3ドル)の宿がありました。部屋の鍵がついてないんですよ。だけど、まあいいやって思ってね」。

オフィスはやはり閉まっている。隣のオフィスに人がいるので、なかなか通じない英語で意志疎通をはかり、電話確認してもらった結果、やはり今日はもう店じまいしたらしい。「午後2時まで」というのは生返事だったのかも・・・と思うと、我々よりY君が気の毒だ。明日は日曜だからオフィスは閉まっている。

「アニは月曜日までおあずけですね」。がっくりしながらも彼と別れ、我々は町を散歩する。

 

ぶらぶらついでに、町の北にある城塞まで歩く。城塞は丘の上にあるのでこれを登るのはひと苦労だ。城塞事態の歴史は古いが、現在の規模になったのは16世紀末とのことだ。まだ午後3時を回ったところなのに、日暮れが早いせいか、もぎりのオヤジに「早く回れよ」とせかされた。展望台からは街が一望できた。街の中央にあるモスクが立派だ。ここで4人連れの若い白人旅行者を見かけた。あとでホテルのフロントでも出会ったのだが、チェックアウトをしている様子であった。これから夜行で西へ向かうのだろうか。

 

空は冬の日本海側を思わせる鉛色の雲がどんよりと漂い、小雨も時折ぱらついている。城塞のたもとにあるアルメニア教会も見に行くが、これはさびれており、興ざめだった。

いっぽう、商店街は楽しい。スーパーマーケットに感動して中に入ると、そこには照明がこうこうと照らされた自由な買い物空間が広がっていた。商品は整然と並び、一品毎に値札がつけられ、値段は一目瞭然。

ユウコは「ねえ? 値段が貼ってあるよ! これならぼられる心配もないね!」と感激し、感極まって涙を流さんばかりである。なるほどスーパーにはパックの牛乳があり、ネスカフェがあるのだが、僕にはいまいち、その感動がピンと来ない。

それよりも、隣の酒屋のほうが僕を感激させた。ここには、トルコ産のビールやワインの他、フランスのワイン、イギリスのスコッチ、アメリカのバーボン、中南米のラム、北欧のウォッカなどなど、世界中の酒が並んでいる。いや、Hanky BanisterCaptain Morgan2つとも並んでいる酒屋は、日本にもそうはあるまい。さすが自由の国、トルコだ。

「世界の酒があるよ!」という感激は、ユウコにはあまりピンと来ないようだ。お互い、感動の対象は異なるが、「旅の道中にはなかったもの、そして日本では当然のようにあったもの」が、ここに存在することに対して感動しているのだ!

 

【国家、国土、国境・・・】

イラン側の国境の町マクーにはトルコ語をしゃべる人がおり、国境を挟んだトルコのドゥバヤジットにはペルシャ語をしゃべる人がいる。ドゥバヤジットはトルコの辺境とはいえ、町には活気があり、生活感があり、子どもが多いのが印象的だ。いまこうしてトルコに来てみると、イランの町の造りは画一的で、今ひとつ生活感に欠けていることに気づく。町歩きに面白味を感じないのは、そのせいかもしれない。しかしトルコは違う。カルスも、そして道中の町も、人間くさい活気にあふれている。そのくせ洗練され、開放的である。

国の印象というのは変わっていくものだ。来てすぐの印象、しばらく滞在したあとの印象、出国前の印象、そして、国を離れ別の国を見ることによって、また少し変わる。トルコは、いうまでもなくトルコ民族の国家であるが、ここにはもはやラグメンはない。しかし、中国新疆以来、羊の串焼きは絶えず存在する。そして、意外なことにコメも絶えず存在し続けている。

 

イラン入国以来伸ばし続けていたヒゲを、1ヶ月ぶりに剃った。僕のヒゲは日本人でも濃いほうだと思っていたので「ひと月も伸ばせばだいぶサマになるだろう」と期待していたのだが、それでも密度が粗なので、カッコがつかない。イラン人やトルコ人の口ひげは実に見事にふさふさというか、ごわごわというか、ビッシリとはえており、かなわない。ヒゲをすっかりそり落とすと、自分でもかわいく見える風貌になった。

 

【世界の音楽、少し雑感】

ホテルの近所にあるディスコがにぎやかだ。音楽の調子はブルガリアの民族音楽に近い印象を受ける。とくにリズム感覚とアコーディオンの曲調が似ているように思う。そういえばイランのポップス音楽で、伴奏のギターの調子が三味線のように聞こえることがあった。不思議なものだ。トルコで聞くポップスの歌詞の語調が(同じ言語系なのだから当然だが)ウイグル民謡と似ているものがある。いろいろ国を経て音楽を聴いているが、ジャカジャカするBGMはイランが本場なのかも・・・と思ったりする。妙に派手なストリングス系が多い。そういえばウズベクのポップス音楽でも、歌い調子がブルガリア民謡に近く感じられることがあるのは気のせいだったのだろうか。

イランでよく聴くリズムの基本形は8ビートで

ン・パ・ン・パ・ン・□・ジャカジャカ(4拍目だけ32分音符。ここに弦が入る)

 歌と歌の間奏に聴くストリングスも動きが激しい。ややマイナー調の曲のほうが受けが良い。全般にイスラム世界ではマイナー調が受けるように思う。

 

トルコワインとして知られるヤクート・ワインを飲んで、すっかり酔っぱらった。