7月30日(木) 上海 晴れ時々薄曇り 蒸し暑い

2日目

 

 部屋はエアコンが効いているので心地よい。

 

ホテルから未舗装の道を南に5分ばかり歩くと漕宝路なる大通りに出る。道は広いが車はさほど多くない。この通りの周りにはめぼしい店はない。1軒、こぎれいな粥屋があった。

 

ここから漕宝路を西へ10分ばかり歩くと、やがて大きな交差点に出る。ここに地下鉄の「漕宝路」駅がある。ここから地下鉄に乗って20分ばかり行くと、上海火車站がある。今日は西安行きのチケットを買いに、まずはここへやって来た。

鉄道の駅は思ったより大きくなく、はじめは間違えたのではないかと思うほどだった。しかしここが駅である。鉄道駅は中国語で「火車站」と書く。乗車券(票)がないと構内に入れない。入り口には検票の係員がいる。検察口の横には、販売窓口が並んでいる。

 

「雑多だなあ!」。これが第一印象だ。なんでこんなに雑多なのだろう。人がごった返している。浮浪者の集会所かと思うくらいだが、そうではなくて、彼らは列車待ち(あるいは自由席券の発売待ち)なのだ。大きな荷物を抱え、家族で座り込む人あり。荷物を肩に担いだり、背負ったりしながら、あれやこれやと立ち歩く人あり。その合間に、券を持った人々がうろつき回る。これはどうやらダフ屋らしい。「鉄道にダフ屋とは」と思うが、まるで口喧嘩でもしているような調子で料金交渉をおこなっている。さらには、白タクのオヤジやオバチャン、そして本当の浮浪者と、まあとにかく大勢の人々が、あっちへ行ったりこっちへ行ったりあるいは寝そべったりおしゃべりをしたりゲームをしたり喧嘩をしたり・・・。

 

旅券の販売窓口がいっぱいある。どれも列ができている。が、我々はいったいどこで並んで買えばいいのか。ユウコが、係員やら公安の人間やらに聞いてあちこち回るが、埒があかない。駅に来れば何とかなると思っていたが、何ともならない。くたびれた身体と頭を休ませるべく、駅前の道路柵に腰掛け、あらためて「歩き方」を読んでみる。と、外人はここでチケットを手に入れることはできないようだ。駅の近くに旅社があって、そこで買わねばならないらしい。そこでその旅社を探す。見つからない。やっと「外国人用発券所」の看板を見つける。火車站に向かって左手奥に、竜門賓館というのがある。その中に発券窓口があるらしい。

 

竜門賓館は三つ星ホテルだ。入り口にはドアボーイもあり、高級車が乗り付けたりして高そうだ。中に入ると、たしかに発券窓口があった。ユウコが筆談で窓口のオネーサンとやりとりした結果、すんなりと明日のチケットを取ることができた。これは意外なことであった。僕は気抜けしてしまった。聞いた話では、中国では翌日のチケットなどまず取れないとのことだったので、上海では3・4日の滞在は覚悟していた。というより、そのつもりでのんびり構えていたのだ。もともと上海という街には興味があったのだが、幸先の良いスタートではある。鉄道料金は思っていたより高く、ホテル内の両替所へ走り中国元を入手する。その間にチケットがキャンセルされはしないかと要らぬ心配をしたが、窓口のオネーサンはなかなか親切で愛想が良かった。上海発西安経由成都行き390次直快。我々は西安まで行く。約1000kmの距離を24時間かけて行く。硬臥の上輔(日本でいうなら客車3段式B寝台の上段)が、1人179元である。ほかに「空調代」として1人2元取られた。

 

火車站に戻る。構内には入れないが、駅ビルの1階には大きな食堂が並んでおり、そこで昼食。カフェテリア方式の食堂で、システムは洋式だが出るものは中華である。というより中華ファストフードというだ。味は悪くない。まわりの中国人はよく食べている。

食後、暑いのをがんばって魯迅公園に行くことにした。これはユウコの強い希望であった。火車站のバスターミナルで行き方を尋ねる。ここのおばちゃんも親切だ。

 

魯迅公園は静かな憩いの場であった。その魯迅先生の銅像の前で記念撮影。記念館は工事中らしく、見ることはできなかった。緑が多い。湖にはボートも浮いている。茶店の周囲には野外チェスをやるオッサンどもが多い。

ベンチに座ってひと休み。チケットを取るのもひと苦労だったが、すでに疲れが出ている。出発前のどたばたによる疲れが取れていないのだ。それに、いきなりの異国だし、そして蒸し暑い。へばってしまう。

そうはいっても上海の滞在は残り少ないので、いろいろ見て回ることにする。

 

外灘を散歩する。ここは外人だけでなく、中国人観光客も多い。名所なのだから当然だ。どこか横浜を思わせる雰囲気がある。川の向こうは近代的ビルがででんと建ち並んでいるが、こちらがわの重厚な建築は歴史を感じさせ、なかなか風情がある。

外灘に行く途中、道すがらに「友誼商店」があったので冷やかす。上海のデパートは、入り口がどこも開けっ放しである。正確に言えば、入り口には頭上から足下にかけて、長さ2mほどのビニールのびらびらが垂れ下がっている。これで空気を遮断するつもりなのだろうが、効率は悪い。中は空調がばっちり効いている。冷気は外へじゃんじゃん漏れる。だからといって扉を閉めておく、ということはしない。よって、路上でも入り口付近は涼しい。

さすがに外国人向け土産物中心デパートだけあって、並ぶ品物は高価なものばかりであった。こんなものを買っていく人は、しかし結構いるのだろう。

 

街の中心にあたる人民公園まで歩くついでにインターネットカフェを探すが、ない。デパートを覗いたり本屋に行ったり電気屋に行ったりいろいろ探して、あるパソコンショップの一角で使えるところを見つけた。1時間15元とのことだが、30分しか使わなかったら8元になった。頼んでないのにまけてくれた。ここのオーナーは英語も分かる、優しい人だ。

アドレス帳を宿に置いてきてしまったために少々もどかしい思いをした。

 

人民公園の脇のチケットオフィスで上海雑伎団の券を買い、会場まで歩く。とちゅう、夕飯を食べる。通り沿いのこざっぱりとした店だ。チャーハンと雑炊(風の料理)。どちらもあっさりめで旨い。油も少ないので胃にも優しく、安心だ。

上海雑伎団の客の多くはツアー参加のようで、白人と日本人が多い。中国人もいる。司会のオネーサンは英語・中国語でしゃべる。しかし、この内容はすばらしかった。やること自体は、テレビで見たことのある物がほとんどだったが、やはりナマで見るのは臨場感が違う。緊張感があると言っても良い。結構ミスもするものだが、それが却って会場の緊迫感を誘い、成功時にはより大きな拍手となる。楽団の演奏も楽しい。当初、1人60元はどうかと思ったが、決して高くない経験である。見に来て良かった。

繁華街をバスと地下鉄とで帰る。上海は夜でも眠らない。さすが一千万都市だ。

 

宿に戻ったのは22時半。地下鉄駅から宿までの漕宝路沿いにはローソンがあり、そこでビールを買った。こんな時間でも明かりをつけて営業してくれるのは助かるが、あると思うとついつい利用してしまう自分が悲しい。