1215日(火)シナイア 曇り時々小雪

 

スキー、スキー!

 

と、元気良く町へ繰り出すが、街中にあるホテルシナイアでも、ホテルモンタナでも、スキーレンタルが閉まっている。とくにモンタナではレンタルコーナーがガラス張りになっているので、中にあるピカピカのスキーセットが恨めしい。ホテルのフロントで話を聞くと、「ロープウェイを上がったところにあるホテルアルピンならスキーレンタルをしているはずだ」というので、ともかくも上に行ってみることにした。

9時半発のロープウェイで、まずはシナイアの乗り場からCOTA1400なる地点まで上がる。降り場から少し下ったところにホテルらしい大きな建物があり「あれがホテルアルピンだろうか」と思うが、強風と霧のため視界が悪く、よくわからない。近づいて確認すると、門が閉まっていた。がっくりとして降り場に戻る。と、降り場のカフェの脇にスキーレンタル屋があった。ホテルモンタナでガラス越しに見たセットとは大きく異なり、最も新しいものでも10年あるいは20年前から使っているようなセットで、靴のインナーはスカスカで、ビンディングも大いに不安があるが、ようやくスキーを借りることができた。

COTA1400はロープウェイの中間地点で、ここからさらに上に行くロープウェイは1時間に1本。1045分発のに乗って頂上のCOTA2000まで上がる。

 

 上がってきたのは良いが、霧が濃く、ろくにコースの案内もないゲレンデとあっては少々危険だが、スキー客は他にもいるのがせめてもの救いだ。だが、慣れないスキーセット(しかも古い)なので、操作がおぼつかない。しかもシーズン始めのせいか雪質は悪く、視界も悪いので恐ろしい。先に行った人の、霧の向こうの薄い影を頼りにそろそろと滑り降りる。と、彼らはみな、途中で右方向に降り始めた。

斜面は、左方向への下りがメインに思われた。リフトもあったように思える。しかし、左に降りていく様子はない。これはどうしたことだろう。ロープウェイは左の斜面から上がってきたはずなのに? それとも右斜面を下ると別のコースに行くのか? 真相を確かめたいが、霧は晴れず、ユウコとも相談して「他の客は全て右に降りていった」らしいので、我々もエイヤァと降りると、リフトが動いているのがようやくに見えた。リフト乗り場の横には野外カフェがある。スキー客もちらほら滑っている。安心して降りる。

ユウコはなかなか降りてこない。しびれを切らして、やっと降りてきたところで「なにやってんだ!」と当たってしまったが、彼女は僕よりスキー技術に劣っており、慣れないスキーセットで不安なのは僕以上のはずで、滑って転んでケガでもしたら・・・と怖がるのは、冷静になって考えれば当然のことなのだが、自分のことばかり考えて思慮が足りなかったと、言ったあとから反省する。

 

 リフトは一見動いていないように見えるが、これはお客を効率的に回すための「作戦」のようでもある。スキー客たちは滑り降りたとき、リフトは止まっている。そこで客はカフェで一息つき、一服したところで、「そろそろ滑るか」と腰を上げる。すると他のお客達も「おや、客が並び始めたぞ。そろそろリフトが動きそうだから、我々も並ぶか」と次々列に付く。するとリフトが動き始める。リフト乗り場にはチケットのもぎりならぬ集金係がいて、客は一回一回、彼に現金を払う。集金係は金を集めつつも、カフェでなおも休んでいる他の客達に、「乗るのかー、乗らないのかー」と声をかける。こうしてひとしきりお客を上げ終えると、リフトを止める。やがて上がったスキー客達が滑り降りてくる。リフトは既に止まっている。降りてきたからと言って、彼らは、すぐに並んでリフトが動くのを待つ、ということはしない。そのままカフェの席についてひと休み、あるものはタバコを吸い、あるものはホットドックを買い、あるものはコーヒーやビールを飲む。適当に休みを取ると、お客の1人が「そろそろ滑るか」と腰を上げる。それにつられて他のお客も「リフトが動きそうだから、我々も」と準備にかかる。そしてリフトは動きだし、集金係は再び仕事を始める。この繰り返し。

 つまり、スキー客達の行動は、なんとなくみんなまとめて団体行動をしているようなものだ。それがちょっとおかしい。何回か滑っているうち「あの人はうまい。あの人はヘタ」というのが、お互いに分かってくる。恐らく彼らの心境としては。「へんな東洋人が2人してへっぴり腰で滑っているぞ」といったところであろう。

 

 リフトの柱に安全マットを巻き付けたり、カフェでは新らしいテーブルをノコギリとトンカチで作成したり、メニュー表示を新調したりするなど、まだまだ準備中といったところで、ともすると今日は今シーズンの開業初日なのではないかという気もする。ただ、お客さんは2030人ほどおり、さびしくはない。団体で行動しているので、カフェは見かけ上、賑わっている。

 

 午後245発の下りでCOTA2000からCOTA1400まで降りる。眼下には別のリフトがあり、こちらも動いていたらしい。が、眼下のコースはかなり急斜面で、COTA1400の乗り場にあるコース案内板を確認すると“エキスパートコース”とある。

「朝一番にまちがって左斜面に降りていたら大変だったね」

と、2人で顔を見合わせた。シーズン始めということで雪が少なく、天気も悪くて残念だった。それに道具が良くなかった。やや消化不良という感じだが、良い運動になって楽しめた。

 COTA1400でスキーを返し、午後3時発の乗り継ぎ便でシナイアに戻る。下のゲレンデのほうがお客が多かったのか、COTA1400からのロープウェイは満員であった

 

 昨日のレストランが美味しかったので、今日もそこへ行く。カワイイウェイトレスさんが片言の英語で相手をしてくれる。注文のピザを運び、「あなたたち日本人でしょう? 私、日本を少し知っているの。”Have a good meal”は『ドゾ、オアガリクダサイ』ね? あってる?」と笑った。

 

 ルーマニアの蒸留酒ツイカを試したいところだが、我らが大家のジイサンの商店ではツイカはなく、パリンカを勧められた。

 ところで、スキーをレンタルする際にパスポートを預けるよう言われた。我々は大家のジイサンに預けてあったのでコピーしか持っておらず、レンタル屋のオヤジにたいそう怒られた。しかし、ここに預けるのも安全とは言えない。持っていなくて正解だったと思う。

 

 夜食のつまみとして買った“Chio Chips”にはなんと8カ国語による商品説明がある。よく見るとそれらは、ドイツ、ブルガリア、ルーマニア、スロバキア、ハンガリー、セルビア、クロアチア、スロベニアの各国語のようだ。朝食用に買ったチョコスプレッドには、ドイツ、ロシア、ウクライナ、ラトビア、リトアニア語の表記がある。