中央アジア5(No.25) いざ、キルギスへ〜ビシュケク1

 

【キルギスの首都、ビシュケクへ向かう】

 

いよいよバーバの家ともお別れだ。バーバとナーディアに挨拶をすると、バーバが突然私を抱きしめて、熱烈なキスをした。びっくりした。でも、別れを惜しんでくれて、とてもうれしかった。

バスに乗り、キルギスの首都、ビシュケクへ向かう。バス代で1340テンゲの他に、荷物代1つ90テンゲをとられた。

ビシュケク行きは本数が多い(2030分おきにある)ので、空席も結構ある。

中国からカザフスタンに来てつくづく思うのは、バスのシート(クッション)が良いこと!車のサスペンションもよく効いている。今日のバスは観光バスみたいな形である。

ビシュケクまでの道は舗装状態も良く、快適に走る。街道沿いには警官が多く立っている。国境へ向かう街道沿いだからなのだろうかと思っていると、突然、猛スピードでパトカーがバスを追い抜いたりして、事件でもあったのだろうかと思わせる。

そうこうしているうち、バスの運転手が「カザフスタン○×△!」と何かを叫んだかと思うと、バスがとまってしまった。窓の外をみると、車が行列になっている。国境にきたのだろうか。しばらくして巡回パトカーがやって来て、拡声器で「Uターンしなさい」と指示している。街道沿いの空き地に誘導され、乗客は皆、バスから降りてしまった。大きな街道といっても、周りの風景は牛や馬が放牧されていたり、イスラム式の墓地があったりして、民家は少ない。とてものどかな風景だ。出発まではしばらく時間がかかるらしく、乗客も呑気に散歩したりしている。230分ほど待っただろうか、けたたましいサイレンの音を響かせたパトカーを先頭に、黒塗りのリムジンの行列がやってきた。最後尾にはもう1台のパトカーと、救急車までがくっついて走ってゆく。どうやら、偉い人のお通りだったらしい。マサトによると、周りの人たちも「(リムジンが近づいてきて)キタキタ。(リムジンが通り過ぎて)イッタイッタ。」と野次馬的に、のどかに話していたらしい。

バスは再び、草原の中を走ってゆく。近くには岩山が見えるが、火焔山と違い、手前の緑が山を柔らかい印象に変えている。しばらく走って、昼食休憩。他の乗客は皆食べたり飲んだりしているが、まだテンゲは使えるのだろうか。電柱にかかっている看板には「KAZAK TELECOM」とある。だいぶ走ったし、国境を越えたはずなのになぜだろう・・・。と思っていたら、国境はまだ通過していなかったのだった。本当の国境はビシュケクの手前、30KMの地点にあった。

 

【イミグレーション、そして外国人登録】

 

カザフ側イミグレーションでは、警察がバス側面に載せられている荷物を見る。(まさしく見るだけ。中身のチェックはしない)

キルギス側では銃を背負った兵隊が車内に乗り込んでくるが、入り口付近で乗客を一瞥して、運転手に、「怪しい奴はいないか?」ときき、運転手が「いないっス。」と答えるだけ。(会話は実際は理解できないので、想像)国境といっても、ほとんどあってなきがごとしのボーダーラインだ。

「簡単だなあ」と思っていたら、ビシュケクのバスターミナルで警官が近寄ってきた。そして荷物共々バスターミナル内にある、薄暗いコンクリートの建物の中へ私たちはまた、連行されてしまった。重い鉄の扉の奥には、粗末な机と椅子が見える。前には警官が、後ろにはやくざのような私服の男達がそれぞれ2名ほどついて来る。「座れ。パスポートを見せろ。」と言われる。その後、キルギスに来た目的および目的地、所持金の額、荷物のチェック、麻薬をやっていないかなどを質問される。荷物のチェックのときに、やくざ風の男達が近寄ってのぞき込んでくるので、「この人達は何者か?」と聞くと、私服警官だという。目つきが怖い。警官は私を見て「妹か?」とマサトに聞くが、まが「妻だ」と答えると、「若すぎる。本当に妻か?」と怪しまれる。そんなこといわれたって、本当に妻なんですけど・・・。アルマトイでの嫌な思い出がよみがえってきた。私たちをたたいたって、埃はでないですよ・・・。お願いだから釈放してください。幸い、賄賂を要求されることもなく、なんとかすぐ自由の身になった。(合法的に入国しているのだから、あたりまえだ!)しかし、狭くて暗いところに連れていって審査するのではなく、もうちょっとなんとかしてほしいものだ・・・。

タクシーの客寄せをふりきり、バス7番に乗って中心街へ。ものすごい混雑で、荷物を下に置くスペースもない。重い荷物を背負ったまま身動きがとれず、体力を消耗する。しかも、次の目的地である旅行会社、Top Asiaの近くのバス停を通り過ぎてしまった。疲れた身体にむち打って、Top Asia を目指し、えっちらおっちらと歩く。これまた薄暗い、コンクリートの建物の地下に Top Asiaはあった。この旅行会社はカンテングリ社の提携会社で、キルギスビザのインビテーションを出してくれた会社である。ここにすぐに外国人登録をお願いし、滞在中の不安材料をなくさなければならない。

Top Asiaは小さな旅行会社で、10畳ほどしかないオフィスでは、韓国系の顔立ちをした30代の男性がたった1人で会社を切り盛りしている。とても感じのいい人だ。4年前までサハリンに住んでいたという。4年前はまだ、一つの国だったサハリンとキルギスだが、今や外国になってしまったのかと思うと、複雑な気持ちになる。外国人登録について相談。本来は手続きに3日かかるらしいが、(たしかにカザフスタンではそうだった)社長(?)は「仲間に連絡してみる」といって、どこかに電話をかけたかと思うと、しばらくして、たいのよい、ロシア系の40代くらいの男性がやってきた。「彼に任せて。手数料は10$かかります」なにがどう10$なのかはわからないが、地理も暗い、言葉もできないというこの地で、再び逮捕されてはかなわない。神妙に10$支払い、手続きをお願いする。オジサンの車でつれていかれた、外国人登録の場所は小さな一般の建物の一部屋で、30分くらい立ちん坊で待っていると、簡単なはんこを押したものの上に、「99930日まで有効」となぐりがきされたパスポートが返ってきた。これでオジサンの仕事はおしまいというわけで、大変簡単な仕事だが、10$節約しようとして、独自に外国人登録するのはむずかしいだろう。Top Asiaでは、ビジネスセンターという、安価なホテルにあきも確認してくれて、これで宿も安心。めでたし、めでたし。

 

【キルギス名物「タバカ」と遊園地】

落ち着いたところで、夕飯はガイドに紹介されていた、「アクク」というカフェでチキングリルを食べた。

注文のときに、「鶏を何グラム食べるか?」と聞かれ、1人前などという単位でなく、グラムで答えることにびっくりする。

私が困っていると、「半羽でいいか?」と、小ぶりなとりの丸焼きがまっぷたつになって出てきた。これが、中央アジア名物「タバカ」との最初の出会いであった。とてもおいしい鶏料理に満足し、開放感もあって、ビジネスセンターの近くの遊園地を散歩する。観覧車があったので乗ろうとすると、テレビカメラがやってきた。どうも質問に答えて欲しかったようだが、マサトが「ロシア語がわからないんです」というと、「それは残念だ。ぴったりだったのに。」といわれたそうだ。なにがどうぴったりだったのか、とても気になる。テレビに出られなかったのもちょっと残念だ。観覧車はとても古くてさびているうえ、乗る場所におおいがなくて、夕暮れ時の冷たい風がぴゅーっと吹き抜ける。日本では「危ない」と絶対認められない乗り物だろう。しかし、危ないおかげでビシュケクの街や天山山脈まできれいにカメラに収めることができた。

明日はイシク・クル湖のある、カラコルという街に行く予定だ。

(つづく)