中央アジア6(No.26) カラコルの高校生〜カラコル1

 

【カラコルの街へ】

今日はカラコルに行く。早起きしてバスターミナルに向かう。既にミニバスの客引きが威勢の良い声を上げている。ミニバスはいわゆる「相乗りタクシー」のようなもので、バス会社ではなく個人が運営している。「カラコル!」とさけんでいるオヤジに引き寄せられるようにミニバスに近づく。

マサトが「いくら?」と尋ねる。

運転手のおやじは答える。「1100スムだ。」

マサトが「ハラショー(おっけー)。」といい、簡単に交渉が成立。

あれ?マサトクン?値切らなくてもいいの?

おやじは「8時に出発する」という。もう5分くらいしかないので、私は急いでトイレに駆け込んだ。しかし、8時になっても全く発車する気配がない。何度も何度も新聞やガムの売り子がバスの周りにやってくる。満員にならないと出発しないのだろうが、8時を過ぎて、おやじは客引きをすることさえやめている。こんなことではいったいいつ、出発できるのだろうか・・・時間だけがただ過ぎていく。いらいら、そわそわする私たち。数分すると、思いだしたかのように時々、おやじは客引きをしてみたりする。そうこうして待つこと1時間半。やっと出発。あんなに急いでトイレに行く必要はなかった・・・。

マサトは言った。「これじゃあ、大型バス(公共バスで、安いが遅くて時間がかかる)で行ってもよかったな。5時までにカラコルにつかなかったら、パンチだ!」

しかし、このおやじのミニバス速い!平均時速100km/hは出ている。1時間走ったところで、「やっぱり速かったね。こっちにしてよかったね。」と機嫌を直した私たちであった。

カラコルへの道沿いは牧草地帯で、緑が多い。牛の放牧が多い。羊は少ない。この辺りの人はあまり羊を食べないのだろうか?トイレも羊臭くないし・・・。などと考える。

そうこうしている間に途中の街、チョルポン・アタに着いた。ここで軽食のための休憩。新疆では食事休憩はたっぷりとり、全員が食事をとるが、ここの休憩は短い。食べない人も多い。

「この点、ウイグルとはエライ違いだ。」とマサト。結局、所要時間5時間半でカラコルに着いた。

 

【親切な女子高生に出会う】

カラコル周辺のアレンジをしてくれるという、旅行会社のPSIを目指すが、今日は土曜日のせいか、休み。この旅行会社、昔日本でも多く建てられた公団団地のような建物の1室に会社がある。なんだかこんな場所に会社があることが面白い。旅行会社でのアレンジはあきらめることにして、自力で泊まる場所を探しに行く。安いところから・・・ということで、スタディオンホテルに行ってみる。このホテル、「学生ホテル」という名前だが、その名のとおり、ホテルというより学校の合宿所といったほうがふさわしいような建物で、中で学生達がウエイトトレーニングに励んでいる様子が見える。宿泊できると案内された部屋は、鍵もかからず、水も出ず、トイレもない。

私が、「トイレはどこですか?」と聞くと、外だという。たしかに建物の向かいにある草ぼうぼうの空き地の真ん中に、公園のトイレのようなコンクリートの囲いがあり、「M・Ж(男・女)」という文字がかろうじて読みとれる。中に入ってみると、もちろん水洗ではなく、掃除したあともなく、コンクリートの上の方にはのぞき窓があってガラスはなく、電気もない。建物の中でさえ、水が出ないのだから、ここに水があるわけがない。手も洗えない。それに、夜中、真っ暗闇の中、この草むらの中をここまでトイレに来なければならないのかと思うと、それだけでげんなりした。部屋の鍵もないから、セキュリティーも不安だ。ベッドも清潔ではないだろう・・・。でもマサトは泊まる気十分だし・・・。自分だけ反対できないし、困ったなあと思っていると、外から「ヒュー」と口笛の音がした。先ほどから我々の行動を見ていた女子2人組だ。

私に近づいて「ここはよくないわ。水も出ないし。ホテルカラコルのほうがまし。」ロシア語はよくわからないが、どうもそう言っているらしい。わたしもそう思う。

女の子たちと私が話しているのを見て、マサトがやって来た。

「夫よ」と紹介すると、「ここに泊まるのはよくないわ」と彼女たちはマサトを諭した。心の中で私は「どんどん言ってください!!」と願った。

話が終わったのを見計らって、私は「この人達のいうとおり、水もでないし、かぎもかからないし、トイレは外だし、そのうえ汚いし。やめたほうが良いと思う。今からでもお金返してもらえるかなあ。」とマサトにいってみた。

「仕方ないな」とマサトもやっとあきらめた。鍵を返すと、宿泊料金はきちんと返してくれた。本当によかった!

荷物をとって外に出ると、さっきの2人組が待っていて、「ホテルカラコルまで案内してあげる。」という。何者なのだろうか?客引きにひっかかってしまったかしら?疑いの目を持ち始めると、彼女らのほうから「地元の高校生で18才よ。」と自己紹介を始めた。名前はアイヌーラとリャーザットだという。私たちがもっていた、ロシア語会話帳を見て喜んでいる。ホテルカラコルに着くと、受付と会話をしてくれ、「部屋に荷物を置いたら戻ってきて。ロビーで待っているから」とのこと。その後、公園へ行き、一緒に写真を撮って住所を交換した。純粋に友人になりたかっただけらしい。彼女らはレストランについても教えてくれた。それは、街唯一のデパート「TUM」の斜め前奥にあり、メニューがラグメンとスープ(トマト味の肉じゃが)しかなかったが、とてもおいしかった。ここのラグメン・スープは牛肉を使っていた。羊肉が苦手な私にはありがたかった。

彼女たちにカラコルのことを聞くと、「カラコルは良くない。」と言った。

「なぜ?」と聞くと、「何もないから」と答えた。都会の生活にあこがれているらしい。

都会に住む私たちにとっては、山と湖と草原のあるこの地は、とても豊かに思えるのだが・・・。田舎にいると都会に憧れ、都会にいると田舎を恋しく思う。人間は「ないものねだり」ばかりして生きているのだろうか。

 

【ひっそりと売られていた豚】

翌日は早起きしてバザールへ行ってみた。アルマトイで見られなかった動物市場をどうしても見たいからだ。バザールの位置はわかったが、動物がいない。しばらくふらふらしても見つからないので、マサトが地元の人に場所を尋ねてみた。すると「タクシーで行きなさい」と言われてしまった。そんなに遠かったのか。素直に従い、タクシーで動物市場に向かった。到着すると、広いグラウンドのようなところに、人と馬・羊・牛などがごった返している。

昔、絵本で読んだ世界のようだ。「○×は育てた羊をバザールへ連れていきましたが、○×の羊はちっとも売れません。。。」

会場の中へ進んでいくと、馬車・馬具・子牛なども売られているのがわかる。そんな中、会場の隅の方で車をとめてこっそり取引をしているものがあるので、何かと思って近づいてみると、トランクの中に子豚が所狭しと敷き詰められていた!イスラム教徒の多いキルギスでは、不浄とされる子豚はこのようにひっそりと売られているのだ。ロシア人がいるので、豚も需要があるということか。

 

朝食もとらずに出かけたので、お腹が空いたが、ここの屋台では動物の糞が食物にかかっているような気がして、一般品のバザールに戻ってから食事をした。冷たいラグメンと、プロヴ、マントウを食べた。プロヴ・マントウのたね(中身)の材料は羊肉だ!やっぱり庶民は羊を食べているのだ。

 

【温泉へ行こう!】

バザールから帰ってきたが、まだ時間がある。

ホテルカラコルは、たしかにホテルスタディオンよりはきれいだし、へやに鍵もかかるが、お湯が出ない。

ゆえに、午後から近くの温泉地、「アクスー・サナトリウム」へ行ってみようとマサトに言ってみた。

この、温泉地、日本の温泉みたいだと思っていると・・・お楽しみに。

 

(つづく)